ノーベル賞のIceCube、忘れてならない千葉大チームの貢献

2026年10月6日、2026年のノーベル物理学賞に、米ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルツェン教授が選ばれた。授賞理由は「IceCube(アイスキューブ)ニュートリノ観測所への決定的な貢献と宇宙起源の高エネルギーニュートリノの発見」。

IceCubeは、南極の氷床深部に5,000個以上の光検出器を配置した巨大なニュートリノ観測施設。宇宙から飛来したニュートリノが氷中の物質とまれに反応した際に生じる荷電粒子が放つ微弱な「チェレンコフ光」を検出し、そのエネルギーや飛来方向を解析する。2013年には宇宙起源の高エネルギーニュートリノの発見が報告され、宇宙の高エネルギー現象を探る「ニュートリノ天文学」の発展に道を開いた。

この国際共同研究には、日本から唯一の参加機関として、千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターのニュートリノ天文学部門が参画し、観測データの解析や光検出器の開発などで重要な役割を果たしてきた。

今回の受賞を受け、千葉大の羽石秀昭理事は、同大学が携わる国際共同研究の成果が評価されたことに喜びを示すとともに、若手研究者が国際舞台で活躍できる研究環境の整備を今後も進める考えを表明した。

ハドロン宇宙国際研究センター長の吉田滋教授は、IceCube計画への参加を決めた当時、高エネルギー宇宙をニュートリノで観測する構想には懐疑的な見方が多かったと振り返る。そうした状況で研究を続け、最初の宇宙ニュートリノ信号を日本グループの解析で同定されたことを大きな成果として挙げた。

また、研究チームに所属している石原安野教授は、2005年にIceCubeの建設が始まった南極点での経験に触れ、過酷な環境で巨大な観測装置を建設する難しさと、その装置を通じて宇宙を探る研究の魅力を語った。人員も予算も限られていた中、独自の解析手法によって成果を積み重ね、光検出器開発・製造にまで日本チームの貢献を広げてきたことへの喜びを示した。

高エネルギーニュートリノの発見を支えた千葉大

千葉大の研究チームは2002年からIceCube計画に参加し、宇宙起源の高エネルギーニュートリノの探索に取り組んできた。

重要な成果の一つが、2012年に観測データから見いだされた極めて高いエネルギーを持つニュートリノ事象の検出だ。千葉大チームは、こうした事象の探索・解析で中心的な役割を担い、2013年に報告された宇宙起源の高エネルギーニュートリノの発見に貢献した。

さらに、2018年には高エネルギーニュートリノの到来方向と、ガンマ線で明るくなった活動銀河核の位置が一致することなどから、ニュートリノ放射源となる天体の特定につながる成果を挙げた。2021年には、特定のエネルギーでニュートリノの反応確率が高まる「グラショウ共鳴」の初観測にも貢献するなど、ニュートリノ天文学と素粒子物理学の両面で実績を重ねている。

新型光検出器「D-Egg」の開発に貢献

同研究チームは、ニュートリノの観測精度を高める光検出技術の開発でも中心的な役割を担っている。2026年1月には、IceCubeの観測能力を高めるアップグレード計画の建設が完了した。この計画では、千葉大が10年以上にわたって開発・製作を進めてきた新型光検出器「D-Egg(ディーエッグ)」が採用され、新たに設置された検出器の約4割を占めた。

(写真)千葉大でD-Egg開発に従事したメンバーとともに: 埋設直前のD-Egg光検出器(中央)を囲んで、左から石原安野教授、牧野友耶(前千葉大特任研究員、現ウイスコンシン大学)、Colton Hill (photo: Aya Ishihara/IceHap)/2026年2月13日付プレスリリースより
(写真)千葉大で開発した次世代高エネルギーニュートリノ望遠鏡IceCube-Gen2に向けた実証機が掘削孔に入っていく様子 (photo: Aya Ishihara/IceHap)/2026年2月13日付プレスリリースより

D-Eggは、楕円形のガラス容器内に上向きと下向きにそれぞれ高感度の光電子増倍管を搭載した光検出器。従来の光検出器と比べ、上下両方向からの微弱な光を捉えられるため、チェレンコフ光の到来方向や光量を、より高い精度で測定できる。

開発・製作では国内企業との連携も進められ、日本の光検出・精密加工技術が国際共同研究を支える形となった。製作責任者を務めた石原教授は南極での建設作業にも参加し、光検出器の開発から現地への設置までを支えた。

次世代のニュートリノ観測に向けて

研究チームは現在、次世代の高エネルギーニュートリノ観測施設「IceCube-Gen2」に向けた技術開発も進めている。2026年のアップグレードでは、同大学が製造した次世代光検出器の実証機5台も南極の氷中に設置された。IceCube-Gen2では観測規模の拡大と検出性能の向上を目指しており、これまで捉えることが難しかった高エネルギーニュートリノの観測機会が増えると期待される。

今回のノーベル物理学賞は、南極の氷を巨大な観測装置として利用するという発想が、新たな宇宙観測の手法として結実したことを示すものとなった。その成果を支えてきた千葉大チームの研究と光検出技術は、次世代のニュートリノ天文学にも引き継がれようとしている。

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