2026年のノーベル賞は、生理学・医学賞、物理学賞、化学賞の自然科学3賞が出そろった。研究対象は脳、宇宙、化学反応とそれぞれ異なるものだったが、光技術という側面から眺めると興味深い共通点が見えてくる。光は、生命現象を操作する道具となり、直接見ることのできない宇宙の粒子を捉える手段となり、さらに物質の構造を理解するうえでも長く利用されてきた。光は最強のツールとも言われている。

生理学・医学賞を受賞したのはKarl Deisseroth氏、Peter Hegemann氏、Georg Nagel氏の3名。光で特定の細胞の働きを制御する「光遺伝学(オプトジェネティクス)」につながる研究が評価された。
Hegemann氏とNagel氏らが研究したチャネルロドプシンは、光を受けるとイオンを通すタンパク質であり、Deisseroth氏らはこれを神経細胞の制御へ発展させた。従来、光は細胞を「見る」ための手段として多用されてきたが、光遺伝学では細胞を「動かす」ためにも使われる。生命科学とフォトニクスが結び付いた象徴的な研究分野といえる。
物理学賞はFrancis Halzen氏が受賞した。南極のIceCube Neutrino Observatoryと、宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノの発見への貢献が評価された。ニュートリノは物質とほとんど反応しないため、そのまま捉えることは容易ではない。IceCubeでは、ニュートリノが氷中でまれに反応した際に生じる荷電粒子が放つチェレンコフ光を、5,160個の光センサーで検出する。いわば「見えない粒子」が残したわずかな光の痕跡から、宇宙を探っているのである。光電子増倍管をはじめとする微弱光検出技術が、新しい天文学を支える重要な要素となっている。技術は日本の企業が貢献しているし、プロジェクトには千葉大学が参画し、宇宙解明の最前線に関わっている。
そして化学賞はHenri B. Kagan氏と東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあい けんそう)氏に贈られることになった。テーマとなったのは、「キラリティ」である。これは右手と左手を思い浮かべると分かりやすい。互いに鏡に映した形でありながら、完全には重ならない。分子にも同じように「右型」と「左型」が存在する場合がある。
生命の世界ではこの違いが重要で、タンパク質を構成するアミノ酸などは、主として一方の型が使われている。医薬品などでも、左右の違いによって作用が変わることがある。Kagan氏は化学反応のわずかな左右差が大きく現れる非線形効果を明らかにし、硤合氏は、反応によって生まれた分子自身が触媒となり、一方の型を増やしていく「不斉自己触媒反応」を開拓した。生命がなぜ一方の型の分子を選んできたのかという根源的な問いを考える手掛かりにもなっている。
化学賞は光を直接の対象とした研究ではない。しかし、分子の右と左を見分ける研究には偏光など光学的な手法が古くから関わってきた。現在では、左右の円偏光に異なる応答を示す材料や円偏光発光など、分子の非対称性とフォトニクスを結び付ける研究も進む。
2026年の自然科学3賞を「光」でひとくくりにすることはできない。それでも、生命では光が制御手段となり、宇宙では検出信号となり、化学・材料では物質の性質を読み解く手段となっている。研究の主役としてだけでなく、成果を可能にする基盤技術として光が存在する。今年のノーベル賞は、フォトニクスが生命、宇宙、化学、材料へと領域を広げていることを改めて感じさせるものとなった。





