立教大と東大、金量子ニードルで近赤外光を高輝度な可視光へ変換することに成功

立教大学と東京大学は、42個の金(Au)原子からなる異方的な形状を持つ金クラスター超原子である「Au量子ニードル」を増感剤として用いることで、エネルギーの低い近赤外(NIR)光を高輝度な可視光(黄色・橙色)へと変換する「三重項-三重項消滅(TTA)に基づくフォトンアップコンバージョン」において、世界最高効率と太陽光レベルの微弱光でも駆動する低閾強度の両立を実現した(ニュースリリース)。

太陽光は最大の再生可能エネルギー源だが、現在の利用技術(太陽電池など)の多くは可視光に偏っており、豊富に含まれる「近赤外光(λ > 750 nm)」の多くは活用されずに無駄になっている。特に800 nmを超える近赤外光は、次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池等でも利用が難しく、変換効率向上の大きな障壁となっている。

この研究では、金原子3個が正三角形状に積み重なった「針状」の異方的なコア構造を持つ金クラスター超原子(Au量子ニードル)に着目した。この物質は、圧倒的な近赤外光吸収能力、可視域の高い透明性、高効率な励起エネルギーの伝達という3つの特徴を併せ持つ。

(図)Au42(PET)32の幾何構造と紫外-可視吸収スペクトル(最大モル吸光係数の値も併せて示す)。ルブレンの発光(蛍光スペクトル)の波長域では、吸収が弱く透過窓として機能する。

これらの特性により、808 nm励起で21.4%、さらに長波長の936 nm励起でも15.0%という、従来の報告値を圧倒的に上回る三重項-三重項消滅(TTA)に基づくフォトンアップコンバージョンの変換効率(理論上限50%)を達成した。また、アップコンバージョンが効率よく起こり始める光の強さ(閾強度)は、0.14 W cm-2と極めて低く、レーザーのような強い単色光だけでなく、疑似太陽光のような弱い多色光の照射でも機能することを証明した。

さらに、これまで学術的に議論の対象となっていたルブレンのスピン統計因子(f)が0.58という高い値であることを突き止めた。これは、今回のAu量子ニードルを用いることで、ルブレンという汎用性の高い分子材料が持つ潜在的な能力を初めて「全開放」できたことを意味する。

(図)Au42(PET)32/ルブレン系における世界最高水準の近赤外-可視光変換の性能 808 nmおよび936 nmの近赤外光を照射した際の発光スペクトル。可視域(550-650 nm)に強いルブレン発光体のアップコンバージョン蛍光が観測されている。疑似太陽光(1 sun相当)の照射下でも鮮やかに発光する溶液の様子(左)。
(図)従来報告されている主要な増感剤との効率比較。850 nm以上の長波長域において、本研究のAu量子ニードルが圧倒的な変換効率(従来比2桁以上の向上)を達成している。

今回開発した「金量子ニードル」は、その原子レベルで制御された針状構造をさらに伸長させることで、1,000 nm(1マイクロメートル)を超える未踏の波長域まで光吸収を自在に広げることが可能。これらの金クラスター超原子をフォトンアップコンバージョンへと応用することは、将来的に、これまで人類が利用できていなかった広大な近赤外光のエネルギーを、自由自在に「資源化」できる可能性があるとしている。

キーワード:

関連記事

  • ミュートロン、多波長同軸スポット照明取付ユニットを発売

    ミュートロンは、UV(紫外光)からSWIR(短波長赤外光)まで幅広い波長帯の観察に対応する、同軸落射テレセントリックレンズ用の波長切替ユニット「MWシリーズ」を発売した。 本シリーズには4つの型式が用意されており、目的の…

    2026.10.16
  • 理研や東京理科大など、X線と近赤外光で脳深部血管を可視化 観察深度2.7倍

    理化学研究所(理研)、東京理科大学、藤田医科大学の共同研究グループは、X線ライトシート顕微鏡「MAXWELL」に近赤外光(NIR)の検出を組み合わせた新たな顕微鏡「NIR-MAXWELL」を開発し、透明化処理をしていない…

    2026.10.08
  • 阪大、近赤外光で腎障害を非侵襲イメージング

    大阪大学の研究グループは、近赤外光を利用し、腎臓の細胞障害を非侵襲的かつ定量的に評価するイメージング手法を確立した。薬剤や遺伝子改変を用いず、障害を受けた腎臓が発する自家蛍光を検出することで、腎障害の程度をリアルタイムに…

    2026.09.02
  • 阪大とartience、無色透明な有機太陽電池を開発

    大阪大学とartienceは、人の目に見えない近赤外光を利用して発電できる無色透明な有機太陽電池(OSC)の開発に成功した(ニュースリリース)。 太陽電池の導入拡大に向けては、建物や自動車の窓、農業用ハウスなど、身近な空…

    2026.08.05
  • DNP、輝度を最大約3倍に高めた高視認性パターンライトを発売

    大日本印刷(DNP)は、従来品と比べて輝度を最大約3倍に高めた小型照明装置「DNP高視認性パターンライト 固定設置タイプ」を開発し、2026年7月から試験販売を開始する(ニュースリリース)。明るい屋内施設や寒冷地などで、…

    2026.07.13

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア