東京大学の研究グループは、可視光を吸収し、2ミリ秒と長く発光し続ける分子状の亜鉛化合物の合成に成功した(ニュースリリース)。

亜鉛化合物は一般に無色な物質であり、分子の中心に位置する二価の亜鉛は、可視光に対してイノセントな元素であると長らく考えられてきた。そのため、可視光を利用する光化学反応や光デバイスにおいて重要な役割を果たす光機能性材料への応用には、大きな制約があった。
このような背景のもと、研究グループは2023年に、世界で初めて可視光を吸収する亜鉛化合物を報告したが、その実現には分子内に二つ以上の亜鉛原子を組み込むことが不可欠だった。今回の研究では、亜鉛原子を一つのみ含み、それ以外は水素・炭素・窒素といった普遍的な軽元素から構成される亜鉛「単核」錯体において、可視光機能を実現した。
鍵となったのは、亜鉛が本来有する「空(から)」の原子軌道の利用。亜鉛の空軌道を、別の原子がもつ空軌道に対して適切な方向に配列させることで、エネルギーの低い新たな空軌道を構築でき、その結果、従来は困難であった可視光吸収が単核錯体においても実現可能なことを実証した。
空軌道が垂直に配置された場合には可視光吸収せず、無色な結晶を与えるのに対し、空軌道が平行に配置された場合には可視光吸収を示し、黄色い結晶を与えることがわかった。
さらに、この知見を基に開発したZ-IPと名付けた別の亜鉛単核錯体は、可視光吸収に加えて発光も示すことがわかった。この発光は軽元素のみから構成される一般的な蛍光材料とは異なり、室温下においても発光寿命が2ミリ秒と長く、錯体の励起状態が長時間維持されていることを示す結果だった。
Z-IPは軽元素以外には亜鉛原子のみを含む単核錯体であり、この特異的に長い励起状態は亜鉛の関与によって実現したことが明らかとなった。

加えて、このような長い励起状態は、光化学反応への応用において好ましい性質であることが知られている。そこで今回の研究では、可視光吸収と長寿命励起状態という二つの特長を活かし、可視光源を用いた光触媒反応への応用可能性を検証した。その結果、青色LEDを光源として用いることで、Z-IPを光触媒とした既存のモデル反応が効率的に進行することを確認した。
研究グループは、今回の研究の成果により、希少金属に依存しない亜鉛を用いた低コストな可視光機能材料の開発や、亜鉛の生体適合性を活かした創薬・医療・バイオ分野における材料開発への展開が期待されるとしている。



