早大など、世界最長クラスのキラル発光ヘリセン分子の系統的合成に成功

著者: オプトロニクス 編集部

早稲田大学と阿南工業高等専門学校は、容易に入手可能な原料から2工程で分子の長さが異なる一連のらせん状低分子有機化合物であるヘリセンを系統的に合成する手法を開発した(ニュースリリース)。

(図)(a) テトラアザ[11]ヘリセンを例とした今回の研究で開発した2段階合成法と(b)ヘリセンの鏡像異性体の構造

近年、キラルな光である円偏光(CPL)は、高輝度液晶ディスプレーの光源や、次世代の光情報通信、量子・スピンエレクトロニクスなどへの応用が期待されており、円偏光発光材料として機能する有機分子の開発が強く求められている。なかでも、芳香環がらせん状に連結したヘリセン分子は、円偏光発光材料として注目されてきた。

しかし、ヘリセンの従来の合成法では市販試薬から多工程を必要とする場合が多く、合成の煩雑さや低収率が、高次ヘリセン研究の大きな障壁となっていた。また、ヘリセンは比較的大きな円偏光発光異方性因子(glum値)を示す一方で、蛍光量子収率(ΦF)が低いことが多く、発光材料としての実用化を妨げる要因だった。

研究グループは、10環式以上の高次ヘリセンを効率よく合成でき、かつ分子長と光学特性の関係を体系的に検証できる合成基盤の確立を目指した。そのために、含窒素芳香環を組み込んだ新しいヘリセン骨格に着目し、簡潔で拡張性の高い合成戦略の開発に取り組んだ。

今回の研究では、容易に入手可能な原料を基盤として、共通の前駆体からわずか2工程でヘリセン骨格を構築する合成戦略を採用した。この手法により、7環から15環まで、分子の長さのみが異なる一連のテトラアザヘリセンを系統的に合成した。

得られた化合物について、紫外可視吸収、蛍光、円二色性(CD)、円偏光発光(CPL)測定を行なうとともに、理論計算(TD-DFT)による解析を組み合わせ、分子長と光学・キラル光学特性の相関を詳細に検討した。さらに、1H-NMRスペクトル解析により、分子内部の構造変化についても検証した。

その結果、7環から15環までのテトラアザヘリセンが、有機溶媒に対する良好な溶解性と高い熱安定性を有していることが明らかになった。特に15環体は、これまでに光学分割されたヘリセンとして世界最長クラスに相当する。

光学特性の解析から、分子の長さが11環付近を境に、吸収・発光スペクトルはほぼ変化がなくなる一方で、円偏光発光特性が急激に増大する臨界長が存在することを見いだした。最長の15環体では、高い蛍光量子収率と大きな円偏光発光異方性因子が同時に実現され、円偏光発光性能(CPL brightness)は既存のヘリセン系化合物を大きく上回る値を達成した。

さらに理論計算の結果から、この特性向上は、分子が十分に長くなるにつれて、電子遷移に関与する遷移双極子モーメント(μe)と磁気遷移双極子モーメント(μm)の相対的な配向関係が次第に整い、円偏光発光に有利な条件へと最適化されていくことに起因することが分かった。

研究グループは、次世代のCPL材料設計における新たな指針となり、高度な光情報処理技術を支える円偏光発光材料への展開が期待されるとしている。

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