岡山大など、「分子の右と左」を見分ける光を超高速で切り替え

岡山大学の研究グループは、中国・東南大学および中国・北京大学との国際共同研究により、アミノ酸の「右手型・左手型」のような分子の左右の違いを見分ける光(キラル光)を、分子サイズの一点に作り出し、超高速にON/OFF・反転できることを実証した(ニュースリリース)。

(図)時間差で「キラルな光源」を超高速に切替
単一の金ナノアンテナに、同じ超短パルス光を2本に分けて照射し、2つの光の到達時間差を変えるだけで、ナノスケールの一点に生まれるキラルな光(左回り/右回り)をON/OFF・切り替えできることを示す概念図。

アミノ酸には「右手型・左手型」のように、鏡に映すと似ているのに重ね合わせられない「左右の違い」がある。この左右の違いは、薬の効き方や生体反応などに深く関係するため、分子の左右を見分けたり、左右に応じて反応を変えたりする技術は重要となっている。分子の左右の違いを調べる代表的な方法の一つが、円偏光を使うことである。ところが、分子が感じる光の環境を「分子サイズのごく小さな一点」に強く作り、しかもそれを超高速に切り替えることは簡単ではない。特に、近接場で、光の「右回り/左回り」に相当する性質を作るだけでなく、ON/OFFや反転まで自由に制御することは、これまで技術的に難しい課題となっていた。

今回の研究では、長方形の金(Au)ナノ構造(単一の金ナノアンテナ)を用いた。形そのものは左右の区別がないにもかかわらず、内部で起こる光の振る舞いをうまく重ね合わせることで、構造の特定の場所(主に四隅)に、 「分子の左右を見分けるのに有効な光の状態」を作り出せることに着目した。研究グループは、超短パルスレーザーを円偏光としてナノアンテナに照射し、ナノアンテナ表面から飛び出す電子を顕微鏡で撮る方法である「時間分解光電子顕微鏡」によって、ナノアンテナのどこで光が強くなっているか、そしてその状態が時間とともにどう変わるかを調べた。その結果、円偏光の向き(右回り/左回り)によって、四隅のどこが強く光るかが入れ替わり、さらに「左右を見分ける光の性質」が局所に現れることを捉えた。

さらに本研究の大きな特徴は、同じ超短パルス光を2つに分け、2つの光が到達する時間差(遅延)を精密に調整した点である(干渉計ポンプ-プローブ法)。この時間差を1.37フェムト秒(フェムト秒=1000 兆分の1秒)に設定すると、四隅の局在光がON/OFFし、また「右回り/左回り」に対応する性質が反転することを実験的に示した。条件の違いによって局所の信号が大きく変わり、ON/OFF比が1000倍を超えることが示された。加えて、光の左右性の強さそのものを、入射した円偏光と比べて最大で約7.5倍に高められる例(いわゆる「超キラル」な光状態)も示され、これも時間差の調整でコントロールできることを示した。

この研究の意義は、形としては左右の区別がない単一のナノ構造からでも、光の重ね合わせ方と時間差を工夫することで、分子の左右の違いに関わる光の状態を必要な場所(分子サイズの一点)に作り、しかも超高速で切り替えられることを実証した点にある。これは、分子の左右の違いが本質となる化学・生命科学(医薬、材料、生体分子など)に対して、より小さく・より速く・より狙った場所で光の環境を与えるための基盤技術になる。

将来的には、分子の左右の違いを高感度に見分ける計測(センシング)だけでなく、超小型の光スイッチや、光の偏光状態を使った高速制御など、ナノスケールで動く新しい光デバイスへの応用が期待されるという。さらに、超短パルスの「並び」を細かく制御できる可能性にもつながり、光を使った高速情報処理・通信などへの発展も期待されるとしている。

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