東京理科大学、大阪公立大学、北里大学は、金錯体を活用した独自の合成戦略により、6つの臭素原子を精密に配置した[9]シクロパラフェニレン([9]CPP)の開発に成功した(ニュースリリース)。

シクロパラフェニレン(CPP)は、ベンゼン環がパラ位で環状に連結された構造をもつ環状 π共役分子。環状に湾曲したπ共役系によりCPPは従来の直鎖状π共役分子とは異なる特徴的な電子的・光学的性質を示すことで知られている。
CPPは高度に歪んだ環状構造であるがゆえに合成が難しく、特に複数の反応点を精密に配置した誘導体を大量に供給することは困難だった。この量的制約は、CPPを出発点とした後期修飾化学、および機能性材料開発を進める上で大きな障壁となっていた。
研究グループは、はじめに独自開発したCPP合成法を用いて、CPP骨格の特定位置に6つの臭素原子を精密に配置した新規[9]シクロパラフェニレン誘導体([9]CPP-6Br)を合成した。合成した[9]CPP-6Brは室温においてほとんど蛍光を示さなかった。
そこで、[9]CPP-6Brの2-メチルテトラヒドロフラン溶液を液体窒素温度まで冷却しながら紫外光を照射したところ、温度の低下に伴い発光色が徐々に変化し、低温領域では623nm付近に明確なリン光が観測された。
CPP誘導体においてリン光が観測される例は極めて少なく、今回の結果は臭素原子による重原子効果が三重項状態からの放射遷移を促進したことを示している。このように、[9]CPP-6Brは後期修飾のための多点反応場だけでなく、リン光特性を示す機能性材料であることが明らかとなった。

次に、[9]CPP-6Brの後期修飾のプラットフォームとしての性能を評価するため、パラジウム触媒を用いたクロスカップリングを検討した。その結果、エチニルベンゼンとの薗頭カップリング、4-メトキシフェニルボロン酸および(E)-(2-エトキシビニル)ボロン酸ピナコールエステルとの鈴木‐宮浦カップリングが高効率で進行し、分子内の全てのブロモ基を、エチニル基、アリール基、エトキシエテニル基に一挙変換させることができた。
これらの反応では6箇所すべてが変換されることから、各結合形成は90%前後の高い変換効率で進行したことになる。さらに、得られた多置換CPP誘導体のうち、エトキシエテニル基を導入した化合物に対してBi(OTf)3を用いた分子内縮環反応を行なったところ、CPP骨格上で同時に6箇所が縮環する多点反応が進行し、新規キラルナノフープ分子が生成した。
この化合物は三つの縮環ユニットが環状に連結したアームチェア型構造をもち、縮環ユニットの回転異性に基づく立体配座により4種類のアトロプ異性体が存在する。
これらの異性体を、キラルHPLCによって分割を行ない、キラル光学特性の評価を行なった。その結果、これらの異性体は比較的強い緑色蛍光を示し、特にD3対称性をもつ異性体において|glum|=0.100という、大きい非対称性因子をもつ円偏光発光(CPL)が観測された。
一般的なキラル有機分子では、左右の円偏光の強さの差は0.1%未満(|glum|〜 0.001)にとどまる。一方、今回の研究で得られた値(|glum|=0.100)は、左右の円偏光の強さに 約5%の差があることに相当する。
研究グループは、今回の研究で提示した多点修飾可能なCPPの合成戦略は、材料開発・応用研究の加速に大きく寄与するものと期待されるとしている。



