北里大学と昭和薬科大学は、チアントレンをクマリンに融合した折れ曲がった分子構造を有する新規有機発光色素(6,7-BDTC)を設計・開発した(ニュースリリース)。

クマリンは医薬・生体関連分野から光機能性材料に至るまで幅広く研究されている有機化合物。これまでのクマリン骨格を含む有機蛍光色素材料の研究では、剛直で平面な分子構造をとることが、高い発光効率を実現する有用な設計戦略とされてきた。
一方、固体状態においては、このような剛直性の高い骨格が分子配列および分子集積構造に強力な分子間相互作用を誘起するため、単分子では高効率に発光する分子であっても、固体では無発光化や発光効率の低下が生じることが知られている。しかし、折れ曲がった構造を有するクマリン色素において、分子構造・集積状態と発光特性の相関を明確に示した例は、これまでほとんどなかった。
研究グループは、折れ曲がったチアントレン骨格を平面なクマリン骨格に融合させた新規有機蛍光色素(6,7-BDTC)を設計・合成した。この分子は、硫黄架橋によってπ共役の拡張を維持しつつ、硫黄原子に由来して折り曲がった分子構造をとる点が特徴となっている。
調査の結果、以下の点を明らかにした。
・粉末状態の試料は水色に発光するが、すり潰すなどの外部刺激を与えると緑色発光へと変化する。
・すりつぶした粉末試料を溶媒蒸気に暴露すると、元の水色発光に戻る可逆的な挙動を示す。
・同一分子から得られた2種の結晶多形(結晶IおよびII)が、それぞれ異なる発光色(水色および緑色)を示す。
・X線結晶構造解析および励起スペクトル解析により、これらの発光色の違いが分子配列(分子間相互作用の強さや次元性)に起因することを解明した。
6,7-BDTCは、硫黄原子を含むチアントレン由来の折れ曲がったπ骨格と、平面性を持つクマリン骨格を組み合わせたドナー・アクセプター型分子。溶液中では、溶媒の極性に応じたソルバトフルオロクロミズムを示し、分光測定および量子化学計算の結果から、分子内電荷移動状態に基づく発光が支配的であることを明らかにした。
一方、固体状態では、顕著なメカノフルオロクロミズムが観察された。未処理の粉末試料は水色に発光し、機械的刺激(粉砕処理)により緑色発光へと変化する。さらに、溶媒蒸気に暴露することで元の水色発光に戻すことが可能であり、この挙動は可逆的かつ繰り返し可能だった。
加えて、異なる溶媒条件下で得られた2種類の結晶多形についてX線結晶構造解析を行ない、蛍光寿命を比較した結果、発光色の違いが分子配列様式に由来することが明らかになった。

具体的には、結晶Iでは強い面内π-π相互作用により分子間の重なりが大きくなり、励起子の非局在化が支配的となることで、短寿命成分が主な発光の起源となる。一方、結晶IIでは部分的な重なりを持つ層分離型構造を形成することで励起子が局在化し、長寿命の緑色発光が単一成分として観測された。
未処理の粉末は結晶Iに類似した積層構造に由来する水色発光を示すが、粉砕処理後の粉末では長寿命の緑発光成分が増加する。これは粉砕によって積層構造が崩れ、単一分子に近い状態での発光が支配的になるためであることが示された。
研究グループは、π拡張クマリン色素や刺激応答蛍光材料の分子設計に新たな指針を提供することで、応力センサー、セキュリティインク、スマート材料などへの応用が期待されるとしている。



