東京大・NTT・NEC、6G/IOWN基盤に技術統合し、リアルタイムAR支援の実証に成功

東京大学、NTT、日本電気(NEC)は、安心・安全な社会を支えるAIエージェント普及の実現に向け、6G/IOWN基盤に3者技術を統合し、AIエージェントに必要な大容量データ通信及び計算処理の最適化を実現した(ニュースリリース)。

(図)6G/IOWN基盤技術統合の全体像

近年のAI活用は、人間がプロンプトを入力して動かす形態が中心ですが、今後は人間の明示的な指示に頼らず、センサなど非人間からの入力を起点に自律的に動作するAIエージェントが普及していくと考えられる。こうしたAIエージェントが周囲環境のデータを常時収集・監視し、異常の兆候を検知した際にリアルタイムで対応できるようになれば、安心・安全を支える仕組みとして大きな価値を持つ。

一方で、常時稼働型のAIエージェントの利用が広がるほど、扱うマルチモーダルデータの量は爆発的に増加する。その結果、現行のICTインフラでは、まず多数のセンサや端末から膨大なデータが常時送信されることにより無線区間の帯域確保が難しくなるという課題が生じる。加えて、すべてのセンサデータを計算量の大きいAIで常時処理し続けると計算負荷が過大となり、リアルタイムな応答が困難になる。さらに、多様なセンサデータを解析するためにAIが大規模化すると、必要な計算能力だけでなく消費電力も増大し、運用面での制約が一層強まる。

この研究では、これら三つの課題を解決するために、通信、入力制御、処理アーキテクチャのそれぞれの段階からアプローチを行なう。まず東京大学では、時間的な意味の連続性を通信制御に組み込むセマンティック通信を発展させた「ストリーミングセマンティック通信技術」を提案した。周囲状況の変化を時間方向に追跡して利用することで、単一フレームでは検出しにくい状況でも、時間的文脈に基づいて検出可能となり、同時に重要な情報を低データ量で送信することで無線区間の通信リソースを大幅に削減する。

(図)技術課題と提案アプローチ

次にNECでは、AIエージェントの前段にデータ識別器を配置する「生成AI向けメディア制御技術」を提案した。重要なセンサデータのみを選択的にAIへ入力することで推論に必要な計算リソースを削減し、識別器はAIエージェントの推論結果を学習しながら、どのデータが重要かを判別できるようにする。さらにNTTは、すべてを一つの巨大なAIに任せるのではなく、ネットワークに分散する小型の専門AIや外部情報源を組み合わせる「In-Network Computing(INC)アーキテクチャ技術」により、AI処理の高効率化と高信頼化を実現するという。

この実証は、AIエージェント利用時におけるエンドツーエンド遅延(E2E遅延)の特性を把握した上で、提案技術による通信及び計算処理の効率化が遅延低減に与える効果を検証することを目的として実施した。実証では、危険シーンを含む動画データセット(60秒、1,800フレーム)を用い、センサーから入力される映像をAIエージェントが処理する構成について、段階的な評価を行なった。対象とするユースケースは、ARグラスを装着したユーザの周辺環境をAIエージェントが継続的にモニタリングし、環境の変化やコンテキストを把握した上で潜在的なリスク兆候を予測・判断する、リアルタイム性が求められるシナリオとなっている。

まず、事前評価として、センサから入力される全フレームを逐次的にAI処理する構成における遅延特性を評価した。その結果、フレームごとに処理待ち時間が累積し、E2E遅延が時間の経過とともに増大する傾向が確認された。これは、ユーザの目の前で危険イベントが発生してから判断結果や指示が提示されるまでに要する時間が増大することを意味しており、リアルタイムなAR支援のユースケースにおける課題であることが明らかになった。

次に、事前評価の結果を踏まえ、この実証において提案技術を適用した構成の評価を行なった。その結果、通信量及び計算負荷が抑制され、動画全体を通じてE2E遅延をほぼ一定に維持できることが確認された。また、処理待ち時間が累積的に増大する傾向は認められなかった。さらに、提案技術の適用によるAIの推論精度の低下も確認されなかった。以上より、提案技術は、リアルタイム性が要求される同ユースケースにおいて、AIの推論精度を維持したままE2E遅延を安定的に低減できることを示した。

(図)ARグラスをかけての実証の様子
(図)ARグラスの画面

今後は、研究成果の社会実装を視野に入れながら、「安心・安全」を支えるAIエージェントと次世代ICTインフラの実現に向けた研究開発を加速していくとしている。

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