岡山大ら,線虫の脂質分布を可視化する新手法を開発

岡山大学,甲南大学は,線虫(Caenorhabditis elegans)の体内構造を保持したまま連続切片を取得し,脂質分布を三次元的に可視化する質量分析イメージング手法を開発した(ニュースリリース)。

線虫は,発生生物学,神経科学,老化研究,毒性評価など多様な研究分野で広く活用されており,特に脂質代謝のモデルとしても重要な生物。しかし,線虫が長さ約1mm,太さ約70µmという小型で透明な生物であるがゆえに,切片作製や内部構造の保存が技術的に難しく,従来の質量分析法では,脂質の種類を網羅的に分析することはできても,それらがどの器官や細胞領域に分布しているかという空間的情報を得ることが困難だった。

研究グループが開発した手法では,ポリジメチルシロキサン製のマイクロ流体チップを用いて線虫を直線状に整列させた後,高粘性のゼラチン・カルボキシメチルセルロース混合ゲルに埋め込むことで,内部構造を損なうことなく10µm厚の連続切片を安定的に取得することに成功した。

得られた切片に対してマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI-MSI)を実施したところ,特定の脂質分子が咽頭や胚など特定の器官に局在していることが明らかとなり,脂質代謝の空間的可視化が可能となった。

さらに,Oil Red O染色法による中性脂質分布との交差検証を行なうことで,MSIによって得られた分布情報の信頼性を裏付けた。取得された連続切片画像は三次元的に再構成可能であり,脂質分布と器官構造との対応を視覚的に示すことができた。

この技術は,モデル生物線虫を用いた高空間分解能の脂質代謝解析を可能にし,個体ごとの変動や遺伝子変異,薬剤応答,加齢などによる脂質の動態変化を詳細に評価するための新たなツールとなるという。特に,脂質代謝異常は肥満や糖尿病,神経変性疾患などさまざまなヒト疾患と関連があり,そのメカニズムの解明は医学生物学・創薬研究にとって重要な課題となっている。

また,質量分析イメージングはこれまで主にマウスなどの動物組織レベルで用いられてきたが,この研究により微小動物の個体レベルでの三次元解析にも応用でき,微小生物やオルガノイド,培養細胞集合体などの次世代モデル系にも応用可能。ナノ医療や環境毒性評価など,さまざまな分野への波及効果が期待されるという。

さらに,従来の染色法との組み合わせにより,分子情報と形態情報を統合的に解釈する多重解析の基盤を築くものとして,基礎から応用研究に至る広範な領域での貢献するとしている。

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