名古屋大学と量子科学技術研究開発機構(QST)は,近赤外光波長領域で強く発光する新規な多元素量子ドットの開発に世界で初めて成功し,生体深部イメージング用発光プローブとして利用できることを実証した(ニュースリリース)。
量子ドットは,量子サイズ効果によりエネルギーギャップや発光波長を調整でき,高い発光量子収率を示す。特にバイオイメージングでは,従来の有機色素に比べて優れた光安定性と生体適合性を持ち,生体の窓(700–1800nm)において発光させることができるために,発光プローブとして有用。
従来から研究されてきたII–VI族やIV–VI族の二元素量子ドットは高い発光量子収率を持つが,毒性の高いCd,Pb,Hgを含むためその使用には厳しい制限がある。これを解決するために,現在,低毒性元素からなる多元素半導体を用いて,高性能な量子ドット(多元素量子ドット)の研究が活発となっている。
しかし,バイオイメージング応用に適した低毒性と発光特性をいずれも満足し,良好な生体イメージング画像が得られる量子ドットは,これまで全く開発されていなかった。
低毒性かつ近赤外光領域に応答可能な半導体の1つとして,I–IV–VI族半導体量子ドットがある。特に,Ag8GeS6半導体は,バルク材料のバンドギャップエネルギーが1.48eVであり,これまで太陽電池の光吸収層への応用が研究されてきたが,その室温での発光特性は,全く報告されていなかった。
研究グループでは,ナノサイズ化するとAg8GeS6が結晶構造を維持したままGeを過剰に取り込んだナノ結晶となることを発見し,最適なGe含有率を見出すことで,近赤外光波長領域(900nm)で強く発光するAg8GeS6量子ドットを作製することに世界で初めて成功した。
さらに量子ドット表面を硫化亜鉛(ZnS)で被覆し,コア・シェル構造量子ドット(Ag8GeS6@ZnS)とすることで,発光量子収率を40%に増大させることに成功した。
この量子ドットは,生体イメージング用発光プローブとして用いることができる。量子ドットを水溶化してマウスに静脈注射し,近赤外発光イメージングを行なった。量子ドットは4時間後には体の一部(肺,肝臓,腎臓)に集まり,皮下15mmまでの生体内深部から,明瞭な量子ドットの発光を観察した。
低毒性元素で構成されるAg8GeS6量子ドットは,細胞毒性および生体への毒性が非常に低いため,既存の量子ドットに比べて生体および環境への負荷を格段に低減することができる。研究グループは,今後の臨床応用に向けての「グリーン・ナノマテリアル」として期待されるとしている。




