光産業技術振興協会 光材料・応用技術研究会は2025年6月6日,東京都港区にある機械振興会館において「非地上系ネットワークの実現に向けた衛星・宇宙通信分野における光技術の新展開」をテーマに第1回研究会を開催した。
冒頭,代表幹事の山本和久氏(大阪大学 レーザー科学研究所・特任教授)が挨拶に立ち,その後に講演がスタートした。最初に登壇したのは情報通信研究機構(NICT)の斉藤嘉彦氏で『Beyond 5G/6G時代の非地上系ネットワークを実現する光地上局技術』をテーマに講演した。
衛星通信の高速・大容量化に向けては光通信技術が注目されており,衛星地上間通信だけでなく,海洋から宇宙まで3次元の各層でシームレスな通信ネットワークを形成する,非地上系ネットワークへの導入が期待されている。
しかしながら,これまでの電波による通信に比べて光では大気の影響が避けられず,さらに遮蔽物があると通信できないなどのデメリットがある。
講演では,この解決に向けた補償光学技術の開発動向について紹介。さらにNICTが開発を進めている小型光通信装置とその実証実験に関する今後の取り組みなどが語られた。
次いで登壇したのはハイティラの平野嘉仁氏。同社は2023年11月に設立された自然科学研究機構認定のベンチャーで,同機構・分子科学研究所/理化学研究所の平等拓範氏の研究成果である小型集積レーザーの製造販売を行なっている。講演では,小型集積レーザーの市場性を示したうえで,その特長,開発のロードマップなどが語られた。
特に宇宙分野への応用に着目しており,衛星ライダーへの搭載を想定。それに向けたレーザー設計の詳細と試作したレーザー,さらにその試作評価の結果が示された。また,京都大学の野田進氏によるフォトニック結晶レーザーと固体結晶融合による衛生イメージングライダー技術の開発についても紹介した。
この後,ニコンの作田博伸氏が「衛星通信用空間光通信機器の光学設計」をテーマに講演。同社では人工衛星に搭載する光学系や天体観測用途の光学機器の開発に加え,光通信に関わる光学製品も提供している。
講演では,光通信機器の光学系に関して紹介されたほか,光衛星間通信システム「LUCAS」の光アンテナ,さらに量子暗号通信光地上局の精捕捉追尾光学系の開発状況が語られた。
このうち,「LUCAS」はLEO(低軌道衛星)とGEO(静止衛星)間のデータ中継を光通信により実現するシステムで,同社はこの送受光光学系(光アンテナ)の開発を担当し,搭載されている。一方の精捕捉追尾光学系は可搬型地上局向けに開発したもので,高精度な追尾技術の確立を追求したという。
講演ラストは宇宙航空研究開発機構の山川史郎氏が登壇し,「今後の宇宙開発・利用を支える光衛星間通信~光データ中継衛星システム(LUCAS)とその成果を中心に」をテーマに講演を行なった。前出の作田氏が発表した光学系に採用された光データ中継衛星システムだが,そのシステムの詳細とともに,今後の宇宙光通信についても示された。
宇宙光通信の速度展望では2035年頃にはLEO-GEO間で数100Gb/sになると語った。「LUCAS」に関しては性能評価や実験実証を進め,2025年7月からは「だいち4号」への本格的なデータ転送サービスの開始に向けて,限界性能評価や確実性向上などの技術実証を進めているとしている。
その後に「国際会議OFC2025」の報告への移り,研究会は閉会した。なお,次回は半導体・光電融合技術を切り口とした研究会が2025年8月29日に予定されている。