慶大,次世代AIデータセンター向けGI型POFを開発

慶應義塾大学は,次世代AIデータセンターの高密度・低遅延の大容量光通信を実現する,超高速伝送が可能な多心構造の屈折率分布型プラスチック光ファイバ(GI型POF)の開発に成功した(ニュースリリース)。

急速に普及する生成AIにより,データセンターでは,従来を大きく上回る超大容量・低遅延の通信技術が求められている。特に,大量のGPUやアクセラレータを連携させるAI処理では,機器同士を接続する短距離光通信の性能がシステム全体の処理能力に直結する。

最先端のデータセンターで用いられている800Gb/sを超える大容量通信では,複数の光ファイバを束ねてデータを並列伝送するが,従来のガラス製光ファイバは基本的に一本ずつ製造されるため,リボン化や特殊な多心コネクタとの組み合わせによる多心化でコストが増加する。

今回研究グループは,長年研究に取り組んできたGI型POF(屈折率分布型プラスチック光ファイバ)を,プラスチック材料の特性を活かした押出成形により一括で多心化する手法を提案した。

押出成形では,押出機のダイ(成形金型)の設計により,コアの数や配置,外形形状にかかわらず,マルチコアGI型POF を一括作製できる。ガラス製光ファイバで必要とされていたリボン化や多心コネクタの実装が不要となり,多心化のコストを1/10~1/100程度にできる可能性があるという。

さらに,今回作製した円形61心のマルチコアGI型POFをVCSELと組み合わせ,1つのコアあたり最大 106.25Gb/sのPAM4信号の伝送に成功。押出成形により一括作製された複数のコア間で伝送特性のばらつきが極めて小さいことも確認した。

また,GI型POFを用いることで,従来のガラス製光ファイバと比べて,VCSELを用いた際の信号伝送特性を大きく改善。ビットエラーレート(BER)は,同一条件下において最大で1/10,000~1/100,000以下となった。

GI型POFは,コア内部に形成された微細な不均一構造によって光の干渉性を低下させ,光ファイバ全体を通じた体積的なノイズ低減効果として機能するため,コネクタやレンズ結合部でのアドオン型のノイズ対策が不要となる。

加えて,BERの大幅な改善により,現在必要とされている DSP(デジタル信号処理)による信号補正を削減できる可能性があり,通信遅延や消費電力の抑制にもつながる。特に,生成AI向けのデータセンターでは,機器間でのわずかなレイテンシがシステム全体の処理性能に影響する。

研究グループは,次世代AIインフラにおけるボトルネックを解消する可能性を秘めた成果だとしている。

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