農工大ら,液だれやキメ落ちしない日焼け止めに知見

東京農工大学,資生堂みらい開発研究所は,蒸発する油としない油を混ぜた溶液を蒸発させるだけで,溶液中のナノ粒子の凝集分散を制御出来ることを明らかにした(ニュースリリース)。

二酸化チタン(TiO2)のナノ粒子は,高い紫外線防御能を示すため日焼け止めの成分として用いられている。しかし,この高い紫外線防御能は,TiO2ナノ粒子がバラバラ(分散状態)であると発揮され,複数のナノ粒子が集まって固まった状態(凝集状態)では紫外線を防ぐ機能が著しく低下する。

一方で,肌に塗る段階では,「液だれ」や「キメ落ち」(成分が肌の凹部に溜まり肌の見た目や紫外線防御効果に悪影響する)が起こりにくい溶液が望まれる。溶液内でナノ粒子が凝集状態であると,溶液の粘性が上がり「液だれ」「キメ落ち」が起こりにくくなるため,塗る場面ではプラスに作用する。この分散と凝集の両立をどのように行なうのかが課題となっていた。

研究チームは,直径20nmのTiO2ナノ粒子とポリヒドロキシステアリン酸(PHSA)(ナノ粒子の分散剤)とをセバシン酸ジエチル(DESB)とシリコーン油(D5)の混合溶媒に加え粒子分散液を作製したという。DESBが蒸発しない油,D5が蒸発する油であり,DESBとPHSAは非常に相性が良い(よく溶ける)ものの,D5とPHSAとは相性が悪い(ほとんど溶けない)性質がある。この分散液を基板上に塗って乾く過程を観察した結果,いくつかの興味深い現象が確認されたという。

まず,D5の割合が多い状態の分散液では,TiO2ナノ粒子が凝集して白濁し,このような白濁状態のときは「液だれ」が起こりにくいという特長が見られた。さらに,乾燥が進んでD5が蒸発してその割合が減少すると,それまで白濁していた塗膜が,ある時点を境に急激に透明へと変化。そしてこの透明化と同時に,塗膜の紫外線透過率は1%程度からほぼゼロに低下し,乾燥後には紫外線防御機能が大きく向上していることが判明した。また,PHSAにとって相性の悪いD5が蒸発し,代わりに相性の良いDESBが主成分となることで,TiO2ナノ粒子の凝集が自然にほぐれ,より均一に分散されるようになることも分かったという。

これまでのナノ粒子を用いた研究では,分散剤を用いて粒子の分散と凝集を制御する手法が一般的だったのに対し,この研究では,混合溶媒の組成を変えるだけでナノ粒子の凝集と分散の制御を行なえることを示した。この成果は,ナノ粒子の新たな分散凝集の制御法として利用でき,ナノ粒子を用いた高機能の日焼け止め開発などにつながると期待するとしている。

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