広島大,暗黒物質に関する新しい観測手法を提案

著者: 梅村 舞香

広島大学の研究グループは,現代宇宙物理学における最大級の謎である暗黒物質に関する新しい観測手法を提案した(ニュースリリース)。

近年,宇宙背景赤外光・可視光の光量が,背景銀河から期待される光量と比べて顕著に多い観測データが得られており,その増光に対して,アクシオン様粒(ALP)の崩壊光子による解釈が多数試みられている。

研究グループは,宇宙空間を漂うアクシオンやALPなど,光子対に崩壊し得る軽い暗黒物質(DM)候補を一般的に探索する新手法を発案した。この手法で感度を上げるには,強い磁石を巨大化して,暗黒物質に触れられる体積を大きくする以外ない。一方,もし磁石を光速で長距離移動させられたらなら,その実効的体積は桁違いに増大する。

磁石を動かすことは,電磁波を飛ばすことに置き換えられる。レーザーやマイクロ波などの位相の揃った電磁波を,宇宙空間に放った場合,その光によりDM候補を長距離空間にわたり誘導崩壊,つまり,稀にしか崩壊しないDMを強制的に崩壊させられる。

もし,暗黒物質が静止している場合には,運動量の保存から2つの崩壊光子が正反対に出る。その片方の光の方向を指定するのは,誘導用の電磁波の進行方向なので,もう片方の崩壊光子は,電磁波進行方向と真逆に放出される。

レーザーなどの位相の揃ったコヒーレント光を宇宙空間で集光後発散させておくと,その集光点から少し離れた所ではほぼ球面状の伝播になる。その球面状光波で誘導崩壊させられた光子は,その発生点であった集光点に必ず戻ることになる。

DMの速度上限は,光速の1/1000未満と見積もれる。実際の地球の重力は,DMに対しては重力レンズとして働き,秒速220kmの入射速度を想定すると,その焦点距離は地球中心から約100万km程度となる。その密度凝縮の効果は,焦点位置では10億倍程度かつ,おおよそ100万kmの距離にわたって少なくとも1千万倍程度の凝縮効果が維持される。

つまり,地球表面を頭皮に喩えると,DMの毛髪の様な構造が現れるが,局所的に霧の如く緩く捉えられているDMは,地球に対して四方八方から入射するため,レンズによって軌道は曲がるが,大きな密度増大は期待できない。これに対して最近見つかった白鳥座S1ストリームのような遠方のDM源がある場合,DMは地球レンズにほぼ平行入射するため毛髪形成が起こる。

この場合,たとえ伝播軸方向にDMが様々な速度を持っていたとしても,衛星が毛髪方向に向けられていれば,常に毛髪全体を光の網で捉えられるため,DMを豊富に含む遠方銀河に対して,どの方向から飛来するかに依らず,地球自体が全天的な望遠鏡レンズとして働くことが期待できる。

研究グループは、暗黒物質の密度の高い部分に観測衛星を配置して,そこから光を放ち,反射光を観察する暗黒物質望遠鏡の開発に役立つ成果だとしている。

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