名大ら,ベイズ最適化で成膜速度を2倍に

著者: sugi

名古屋大学,理化学研究所,グローバルウェーハズ・ジャパンは,逐次最適化のための機械学習手法であるベイズ最適化を,化学気相成長法(CVD 法)によるエピタキシャルSi膜の成長プロセス条件の最適化へ応用することにより,成膜品質を維持しながら,成長速度を約2倍に高めることに成功した(ニュースリリース)。

先端の半導体デバイス材料には,高品質なSiウエハーが求められており,不純物濃度や欠陥密度の低い高品質な結晶膜を得るために,化学気相成長法(CVD 法)を用いてSiウエハー上にSiエピタキシャル膜を成膜する。このCVD法では,基板加熱条件や基板位置,基板回転速度,原料ガスの流量など,多くのプロセス条件パラメータがある。

また,得られるSiエピタキシャル膜にも,成長速度,ウエハー面内の膜厚均一性,ウエハー面内の抵抗率均一性,欠陥密度など考慮すべき品質パラメータが多く存在する。これらのプロセス条件パラメータと品質パラメータは複雑に関係しているため,すべてのパラメータを考慮した大域的な条件探索は難しく,従来は既存条件の近傍に限定した探索やパラメータ数を絞った探索を行なうことが一般的だった。

研究では,ベイズ最適化を応用することで,3か月という非常に短い開発期間の中でも12個という多数のプロセス条件パラメータを同時に考慮した大域的な探索を行ない,従来の条件とは大きく異なるプロセス条件パラメータ値の組み合わせで,5つの品質パラメータの値を基準値以下に維持したまま,成長速度を従来の約2倍にすることに成功した。

近年,材料分野では,手動で調整することが困難な数のパラメータに対して,機械学習を用いた最適化が有効であることが報告されている。その多くは,シミュレーションデータを用いた機械学習による物質探索によって,特定の材料物性値を向上させる物質を見い出すなど,目的が単一だった。

この研究は,材料プロセスの実際の実験という複雑な対象に対して,複数の制約を適応的に用いることを提案したもの。提案した手法は普遍的な方法であるため,研究で応用した材料プロセスはもちろんのこと,多様な逐次最適化に応用可能であり,最適化の有効化・効率化に貢献するものだとしている。

キーワード:

関連記事

  • 筑波大,発光スペクトルで鉄酸化物薄膜の作成中解析

    筑波大学の研究グループは,電子デバイスなどの材料に用いる鉄酸化物薄膜の作製において,反応性スパッタ中に生じるプラズマ発光スペクトルの全波長データを機械学習で解析し,生成する薄膜の価数状態と成長速度をリアルタイムに推定する […]

    2025.09.17
  • 北里大ら,マルチスペクトルカメラで非侵襲血液解析

    北里大学と東京理科大学は,マルチスペクトルカメラで牛の尾静脈付近(尻尾裏側)を撮影することで,非侵襲的にかつ瞬時に複数の血液成分の同時分析が可能となる新たな手法を開発した(ニュースリリース)。 牛の血液検査は代謝プロファ […]

    2025.09.05
  • 北大,バンドギャップ予測可能なペロブスカイト設計

    北海道大学の研究グループは,機械学習によってバンドギャップ(光吸収の指標)を精密に予測・設計できるペロブスカイト無機材料の開発手法を確立した(ニュースリリース)。 近年,マテリアルズインフォマティクスの発展により,機械学 […]

    2025.08.21
  • 名大ら,ナノ領域の水構造を分光と計測を通じて解明

    名古屋大学,独マックスプランクポリマー研究所,中国厦門大学,中国東南大学は,ナノメートルレベルの空間に閉じ込められた水の構造を和周波発生分光スペクトルの理論シミュレーションと計測を通じて明らかにした(ニュースリリース)。 […]

    2025.08.21
  • 住友重機械,ペロブスカイトPV向けの成膜技術を開発

    住友重機械工業は,次世代の太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池に欠かせない電子輸送層と呼ばれる極薄の膜を,安価な材料を用いて環境負荷の少ないプロセスで形成する新規技術の開発に成功した(ニュースリリース)。 数種 […]

    2025.08.19
  • 神大ら,光触媒の性能を予測できる機械学習を開発

    神戸大学と奈良先端科学技術大学院大学は,太陽光と水からCO2フリー水素を製造できる光触媒の性能を,少数データから予測できる機械学習モデルを開発した(ニュースリリース)。 太陽光と水からCO2フリー水素を製造できる光触媒は […]

    2025.07.09
  • 熊本大,深層学習で細胞顕微鏡観察のジレンマを克服

    熊本大学の研究グループは,深層学習による顕微鏡画像の画質復元技術を活用して,植物細胞の分裂における初期の細胞板形成過程を可視化し,アクチン繊維の新たな局在パターンを明らかにした(ニュースリリース)。 細胞内の繊細な構造を […]

    2025.05.20
  • NTT,光半導体薄膜の製膜条件を機械学習で自動導出

    日本電信電話(NTT)は,光通信用デバイスに用いる半導体薄膜の成膜条件(原料ガス量)を,半導体物性の知識を取り入れた機械学習により自動導出する手法を実現した(ニュースリリース)。 今回,MOCVD法により,光通信用デバイ […]

    2025.05.07
  • オプトキャリア