情熱を持ち,IOWNが描く未来を実現していく 

著者: 梅村 舞香

-IOWNの実現に向けて海外との協力はどうでしょうか

これまでNTTは海外展開がうまくないと言われてきたのは,最初からグローバルに物事を巻き込むことができていなかったことがあります。そこで2020年1月にNTT,インテル,ソニーが国際的フォーラムのIOWNグローバルフォーラム(IOWN-GF)を設立し,海外のメーカや研究機関などに賛同をいただき,多くの組織・団体に参画いただいています。IOWN-GFでは目指す世界に必要な技術と今の技術とのギャップを見出し,そこを解決するにはどうしたらいいか,グローバルに議論できるような場を作っています。もちろん海外にも多くの標準化団体がありますが,共通の技術項目や方向性を持っていれば,そことリエゾン関係を持つこともあります。

IOWNグローバルフォーラムには現在約144社が加盟しており,アメリカ,ヨーロッパ,アジアの大手メーカやテレコムなどを含み多くの組織・団体に賛同していただいています。国内の通信会社ではKDDIや楽天モバイルにも加入いただいています。

-研究所を運営する上で大切にしていることはありますか

理念的な観点からいうと,物事を研究する上ではその人がいかに主体的に情熱を持って物事に取り組むかが重要だと思っています。私はよく所員に,ノーベル物理学賞を受賞したアーサー・ショーローの「成功する科学者は往々にして最も優れた才能の持ち主ではなく,好奇心に突き動かされている者である」という言葉について話します。パッションや好奇心が重要だということです。

ただし,パッションさえあればいいという訳ではなく,研究をする上で自分がやっていることが世の中にどのように役に立つのか,どういうことを目指しているのかを磨いておかないと自己満足になります。ここには基礎研究から応用デバイスまで様々な研究がありますが,自分たちの研究によって社会がどう変わり,どう貢献できるかが重要です。NTT研究所の前身である電気通信研究所の初代所長吉田五郎氏が掲げた言葉「知の泉を汲んで研究し,実用化により世に恵を具体的に提供しよう」,これはまさに自分の研究がどう世の中を良くできるのか,大きな絵が描けないといけないということだと思います。

もう一つ,我々は先端技術を研究していますが,まだ世の中がそれを受け入れられない,つまり少し技術が早すぎることがよくあります。周囲が受け入れられる環境になっていないと,その技術がなかなか生かされません。例えば原理を追求するときに測定技術に限界があれば,測定技術をレベルアップすることで研究がより受け入れられやすくなります。若い人は周囲の関連する技術が発展する時間軸も意識して,周りの技術がこうなってほしいと思い描くことも重要だと思います。

パッションや好奇心,信念を持って研究している中でも,時として冷静に周りの意見を素直に聞くこと,相手をリスペクトする気持ちというのも非常に大事です。突っ走ると周りが見えなくなる場合もあります。客観的に見るとこういった意見もあるんだ,ということも大切にしてほしいですね。

そして最後,研究は一人ではできないので,協力しながら作り出すステップが重要です。我々が注意しないといけないのは,誰かが言ったからというのではなく,既成概念を超えて新たなパラダイムシフトに気づくという思いを持って研究していくことです。研究者は課題を解くことは比較的得意かもしれませんが,未知なるものを自分で打ち出すということ,新たなものを打ち出すということが重要だと思っています。これはもしかしたら日本全体でしっかり組まないといけない問題かもしれません。

最近,日本発という言葉が少ない気がしますが,世の中が変わるような提案ができるといいですね。新しい提案をすることはちょっと怖いですが,意外とできないと言われていたことが,むしろ5年~10年経ってみるとさっき言ったように周りの技術も上がってきて,実現できるようになっていることもあります。だから地道にじっと耐えるということも大事です。

パソコンの父と呼ばれるアラン・ケイは「未来を予測する最善の方法は,それを発明することだ(The best way to predict the future is to invent it.)」と言いました。つまり未来を予測する一番簡単な方法は自分で未来を創造するということです。

研究によって,どのように世の中が変わるのかを誰でも分かるようにしっかり伝えないといけません。そしてその話が本当に魅力的ならば賛同も得られるので,自分がやってきた研究に意味があると確信が持てます。

私たちは研究者としてベースとなる研究を大切にするとともに「基礎研究」という言葉の使い方に注意したいですね。「基礎研究」だから難しくて「実用化はまだまだ先」ということではなく,何の基礎になる研究で,どんなものと組み合わせて,どんな時期にどうなることが期待でそうかという時間軸も持っているべきです。何か目指したい世界があるからその基礎の研究をやっている。そこと結びつけると仲間も増えてくると思っています。

応用研究は泥臭いところを一つ一つ潰しながら進めていきますが,その過程で実はいろいろな副産物も出てきます。ここを連続的に進化させていくということ,その進化の過程で新たな分岐が発生し,一直線じゃなくてそこからいろいろ分かれていくところが重要です。

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