4. ガスイメージングの応用例
4.1 洋梨果皮より放出されるエタノールによる追熟評価
洋梨などのクライマテリック型果実は,収穫後も追熟を生じる。その際,果実内にEtOH濃度上昇が生じることが報告されている。また嗅覚に優れるアフリカゾウでは嗅覚情報にて糖度の高い果実を選別できることからも,果実内のEtOHは果皮を介して大気放出されていると考えられる。そこで,冷暗所にて密閉保存した市販のラ・フランス梨を各保存日数で取り出して実験に供し,EtOH放出を動画像化した。その結果,図4(a)および図4(b)に示すように開発したガスイメージングシステムにてラ・フランス梨由来のEtOH放出動態のイメージングが可能であった。また,保存期間に応じて放出されるEtOH濃度が増加することも確認された(図4(c))。EtOH放出分布を観察すると,萼窪付近の盛り上がった部分にて高濃度の放出が観察された(文献4)にて動画閲覧が可能)。この特徴的な放出分布について現在も調査を進めている。明視野画像とEtOH分布の重畳評価の結果,高濃度部位と洋梨果皮の表面に存在する斑点(レンチセル)の高密度部位に相関があると考察している。レンチセルは多孔性の構造を有しており,他の組織構造に比べて10倍程度ガス透過性が高いとシミュレーションにて明らかとなっている。一方で,これまでにレンチセル分布とガス放出分布の重畳評価が可能なシステムは存在しなかった。このように「どの位置から,どの程度ガスが放出されているか」の評価が可能なことは,本系の優位点の一つである。

4.2 飲酒後に経皮放出される血中エタノールおよびアセトアルデヒドによる代謝評価
飲酒によって血中に取り込まれたEtOHは肝臓にてアセトアルデヒド(AcH)に代謝され,その後,酢酸を介して徐々に無害化される。このとき血中EtOHは,肺胞でのガス交換を介して体外に放出される。この濃度が血中濃度と相関するため呼気での飲酒検査が可能で,法執行の根拠として有効な信頼性も運用の工夫により担保されている。同様に,血中EtOHは皮膚組織を透過して体外へと放出されるためウェアラブルセンサにて呼気計測に比して簡便に,代謝状態を無意識のうちに評価することも可能と考えられる。このとき,全身を覆う皮膚全体が経皮ガス放出源となるが,皮膚に存在する汗腺の種類や密度,表皮の厚み,皮下の毛細血管の分布など,身体部位によって経皮ガス放出に影響を与える皮膚特性は異なる。そのため,経皮ガス用ウェアラブルセンサの実用化を進めるためには,皮膚の多様性を考慮して設置部位や形状を検討する必要があると考えられた。そこで,経皮VOC計測に適する身体部位をガスイメージングシステムにて評価した。図5(a)は様々な身体部位にて経皮EtOHをイメージングし,角質層数および発汗速度(文献値)と共にまとめた表である。耳周辺では発汗がほとんど生じず,表皮が薄いために経皮VOCが安定的に放出されやすい。また耳孔は奥行きを有する耳道の開口部で,投影面積あたりの表皮面積が大きくなることから高濃度のEtOH放出が観察された。以上より各種の身体部位中で耳が経皮ガス計測に適切であると考えられた。図5(b)は耳部位にて,経皮EtOHおよび経皮AcHを同一被験者にて別日に時空間イメージングした結果である。なお,AcHは,ADHの基質還元反応(2.1節を参照)にてイメージングした。EtOHおよびAcH放出分布を重畳すると,両成分が耳孔にて高濃度に放出されている様子が観察できた(文献5)にて動画閲覧可能)。耳孔にてEtOHおよびAcH濃度の経時変化を算出すると図5(c)のようにアルコール代謝に則り,両成分濃度が変化していることがわかった。以上より,ガスイメージングによる経皮ガス放出部位の探索とアルコール代謝評価が可能であった。




