光学応用に向けたゲルマニウム系薄膜の高品質合成

著者: 都甲 薫

1. はじめに

ゲルマニウム(Ge)は,初期に発見された半導体材料の一つであるが,主流の電子産業ではシリコン(Si)に置き換えられた。しかし,その高い屈折率や強い赤外吸収特性,そして優れたキャリア輸送特性により,フォトニクスおよび赤外光学応用における主要材料として改めて注目を集めている1, 2)。これまでに赤外線センサや熱画像素子として実用化されているが,最近では光通信用波長変換素子や短波赤外フォトディテクタなどへの応用が研究されている。また,GeはIV族元素であるため,標準的なSi-CMOSプロセスとの高い互換性を持ち,光電子融合デバイスの単一基板上への統合も可能である。宇宙用途で使用される多接合型太陽電池は,Geが工業的に成功を収めた代表例であるが,単結晶Ge基板は高価であるため,その広範な普及は制限されている。そのような中,Ge薄膜に期待が集まっている。Ge薄膜は,コスト面以外でもバルクGeに対して多くの利点を有し,電子・光電子デバイスへの応用において非常に魅力的である。例えば,高い光吸収係数により,薄膜でも高効率な光吸収が可能である。また,バルクMOSFETにおいて問題となるリーク電流は,膜厚を薄くすることで緩和される。さらに,低い結晶化温度やヤング率により,ガラスやプラスチック,LSIなど多様な基板への適用が可能である。このように,コストおよび性能の両面から,絶縁体上に高品質なGe薄膜を形成する技術が求められている。

単結晶Si基板を利用することで,絶縁体上に単結晶Ge薄膜を得る手法が開発されてきた3, 4)。しかし,SiとGeの格子定数差に起因した欠陥の導入は避けられない。一方,酸化膜やガラス,プラスチック等の非晶質絶縁基板上に,Ge薄膜を直接形成する研究が行われてきた。Geは,化学気相成長では基板に付着し難く,また液相成長では連続膜が得られにくいため,非晶質Ge薄膜を熱処理により結晶化させる固相成長が主に検討されてきた。固相成長を用いた場合,得られる薄膜は必然的に粒界などの欠陥を有する多結晶構造となる。多結晶Ge薄膜には以下の3つの本質的な課題があり,その潜在能力を十分に発揮できていない。⑴Geの低い核生成エネルギーにより,粒径が小さくなり,キャリアの散乱および再結合が増加する。⑵Ge中の欠陥はアクセプタとして働き,高い正孔密度(p:1017–1019 cm–3)を示す。⑶n型ドーパントの活性化率が低く,小粒径や高pの影響も相まって,安定したn型伝導制御が難しい。これまで電気炉加熱5〜9),ランプアニール10, 11),および金属触媒12〜15)により固相成長が誘起され,欠陥を多数キャリアの起源としたp型多結晶Ge薄膜が形成されてきた。また,V族元素の不純物ドーピングにより,多結晶Ge薄膜のn型伝導制御が達成されてきた16〜20)。しかしながら,上述の課題により,Geのポテンシャルを活かした高いキャリア移動度を得ることは困難であった。

近年の固相成長技術の進展により,これらの課題は徐々に克服されつつある。我々は,固相成長における核生成と成長の制御により粒径を増大させ,アクセプタ欠陥を低減し,多結晶Ge薄膜のキャリア移動度を向上できることを示した20〜23)。また,高品質な多結晶Geに対する不純物ドーピングにより,伝導型やキャリア濃度の制御も可能となった24〜26)。その結果,p型で690 cm2V–1s–1,n型で450 cm2V–1s–1という,これまでにない高移動度のGe薄膜が達成された。これらのキャリア移動度が,単結晶Si基板からエピタキシャル成長した単結晶Ge薄膜を凌駕する点は特筆される。また,pチャネル薄膜トランジスタにおいては単結晶Siを凌駕する電界効果移動度(250 cm2V–1s–1)が得られている27)。したがって,今や多結晶Ge薄膜は,高性能電子デバイスへの有力な候補材料として認識されている。しかし,一般に光学デバイスの材料には非常に高い結晶性が要求されるため,光学応用への技術的ハードルは未だ高い。本稿では,「多結晶Ge薄膜をどこまで高品質化できるか?」という挑戦に対する最新の動向について,我々の成果を中心に紹介する。

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