光学応用に向けたゲルマニウム系薄膜の高品質合成

2. 固相成長による多結晶Ge薄膜の高品質形成

固相成長は,非晶質薄膜を熱アニールにより結晶化させるプロセスであり,⑴非晶質膜堆積,⑵核生成,⑶結晶成長という3段階から成る(図1(a))。初期段階で無秩序な非晶質Geが形成され,加熱により点在する核から結晶化が進行し,横方向成長によって結晶ドメインが拡大する。従来の固相成長では,非晶質Ge薄膜を室温付近で堆積後,約400−500℃でアニールすることで多結晶化が進む。低温アニールによって核生成が抑制され,粒径は大きくなるが,それでも100 nm程度の微小な粒であった。また,Ge中のアクセプタ欠陥により自然にp型となり,正孔密度が1018 cm–3程度と高く,正孔移動度(μp)も最大で130 cm2V–1s–1とGe本来の性能には遠く及ばなかった5)

図1 (a)固相成長における前駆体密度効果の模式図。(b)低密度(50℃堆積)および高密度(125℃堆積)の前駆体を用いて固相成長した多結晶Ge薄膜の結晶方位マップ。(c)正孔移動度および正孔密度の堆積温度依存性。固相成長条件は450℃,5時間。
図1 (a)固相成長における前駆体密度効果の模式図。(b)低密度(50℃堆積)および高密度(125℃堆積)の前駆体を用いて固相成長した多結晶Ge薄膜の結晶方位マップ。(c)正孔移動度および正孔密度の堆積温度依存性。固相成長条件は450℃,5時間。

この課題に対して我々は,非晶質Ge薄膜の原子密度を制御する手法を提案した20)。適切な堆積温度により,非晶質状態を保ちながらGe薄膜の原子密度を結晶に近づけることで,結晶核の横方向成長速度を飛躍的に向上させる方法である(図1(a))。本手法により,多結晶Ge薄膜の結晶粒径は1桁以上拡大し,μpは280 cm2V–1s–1に達した(図1(b), (c))。この発見に先立ち,非晶質Ge薄膜中に微量のSnを添加することで,同様の大粒径化現象が起こることを九州大学が報告していた28, 29)。Sn添加はキャリアの粒界障壁を低減する効果もあるため,加熱堆積とSn添加を重畳することにより,μpは540 cm2V–1s–1に達した30〜32)。また,Geと基板の界面にGeO2層を形成することで,界面核発生が抑制され,プラスチック基板上において結晶粒径は10 μm以上,μpは690 cm2V–1s–1に及んだ23)。フェルミ準位制御の観点からは,GaやPなどの不純物ドーピングによりp型およびn型Ge薄膜の両方でキャリア密度が制御され,高いキャリア移動度も得られている24, 25)。Snと同様に,ドーパント添加は固相成長の挙動にも影響を与え,核生成や成長速度を制御できることが明らかとなっている。特に,P添加により大粒径の多結晶Ge薄膜が得られ,電子移動度(μn)は450 cm2V–1s–1に及んだ26)

このように,堆積温度制御や不純物添加は,Ge薄膜の固相成長プロセスに大きな影響を与える。GeにとどまらずSiやIII-V族半導体にも有効であることが判っており,様々な材料に応用が可能な汎用性の高い知見である33, 34)

3. 電気的特性のベンチマーク

これまでに報告されてきた多結晶Ge系薄膜の電気的特性について,キャリア移動度とキャリア密度の観点から整理した(図2)。ただし,各手法によって膜厚やプロセス温度が異なるため,手法間の優劣を直接比較するものではない点に注意が必要である。また,p型とn型とで報告数に顕著な差があるのは,多結晶Ge薄膜がアクセプタ欠陥により自然にp型になること,またn型ドーパントの低い活性化率によりn型制御が難しいことに起因している。p型薄膜ではpの低下とともにμpが向上し,n型薄膜では電子密度(n)に対してμnがピークを持つ。これらの現象は以下のように解釈できる:⑴p型薄膜では,キャリアの粒界障壁が比較的小さいため,μpは不純物散乱の影響を受けやすく,特に大粒径試料でその傾向が強い。⑵n型薄膜では粒界障壁が大きく,μnは粒界散乱の影響を強く受ける35)。nが増加すると粒界障壁が低下するため,μnnとともに上昇し,やがて不純物散乱によって再び低下する。注目すべきは,p型,n型いずれの薄膜においても,多結晶薄膜でありながらバルク単結晶Geに迫るキャリア移動度が実現されている点である。特に,我々の固相成長で形成されたGe系薄膜において,いずれも最高のキャリア移動度が達成されており,プラスチック基板上への展開も実証された。最近では,Ge中への水素添加がアクセプタ欠陥を劇的に補償することが明らかとなり36),多結晶Ge薄膜として未踏領域であった低キャリア密度側における電気的特性制御にも挑戦している。

図2 絶縁体上に合成された(a)p型および(b)n型Ge系薄膜の電気的特性(キャリア移動度,キャリア密度)の比較。各点について,成長手法(SPC:固相成長,MIC:金属誘起成長,Epi:エピタキシャル成長,Lamp:ランプアニール,Laser:レーザーアニール),V族ドーパント(P,As,Sb),および参考文献番号を示す。
図2 絶縁体上に合成された(a)p型および(b)n型Ge系薄膜の電気的特性(キャリア移動度,キャリア密度)の比較。各点について,成長手法(SPC:固相成長,MIC:金属誘起成長,Epi:エピタキシャル成長,Lamp:ランプアニール,Laser:レーザーアニール),V族ドーパント(P,As,Sb),および参考文献番号を示す。

4. まとめと今後の展望

本稿では,絶縁体上に直接合成したGe薄膜の最新の進展について,固相成長技術を中心に紹介した。従来,多結晶Ge薄膜には結晶性とフェルミ準位制御という致命的な課題があったが,固相成長プロセスにおける前駆体の状態制御(高密度化,不純物添加)によって,大きく改善されてきた。得られたキャリア移動度は,ガラスやプラスチック基板上に低温合成された半導体薄膜としては最高水準であり,高い電界効果移動度をもつフレキシブル薄膜トランジスタも実証されている。一方,光学応用の検討は未だ始まったばかりである。我々は最近,固相成長で形成した多結晶Ge薄膜に対して擬似太陽光を照射し,光応答(分光感度スペクトル)を観測することに成功した。多結晶Ge薄膜として初めての成果であり,多接合型薄膜太陽電池の長波長吸収層の実現に向けた大きな一歩と考えている。今後,粒界や結晶方位の制御,応力工学,高度なドーピング戦略の融合により,光学性能の向上が期待される。

以上のように,固相成長プロセスの工夫により,多結晶Ge薄膜の結晶性,電気的特性は近年著しく向上しており,光応答特性の実現にも直結している。Geがフレキシブルな次世代光デバイスに適した有望な材料候補であるだけでなく,これらの結晶成長に関する知見が他の材料系へと応用展開されることも期待される。

謝辞

本稿で紹介した筆者らの研究の一部は,JSPS,JST,NEDOの助成の下に行われたものです。また,筑波大学の末益崇教授および熱意ある院生諸君をはじめ,多くの共同研究者の方々に深く感謝します。

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