東大と理研、フェムト秒軟X線ハイパースペクトル顕微鏡を開発

東京大学と理化学研究所は、X線自由電子レーザー(XFEL)の単一パルスを用いて、試料の各位置を透過した軟X線のスペクトルを同時に取得するフェムト秒軟X線ハイパースペクトル顕微鏡を開発、実現に成功した(ニュースリリース)。

(図)開発したフェムト秒軟X線ハイパースペクトル顕微鏡(左)と、フェムト秒軟X線ハイパースペクトル顕微鏡の原理図(右)

軟X線分光分析は軽元素や遷移金属を特異的に見ることができる特徴を持つことから、これらの元素の化学的状態を明らかにする有力な手法。しかし、電池材料、触媒、光機能材料、生体試料などでは、反応、劣化、相変化が試料内で一様に進むとは限らない。これら試料には全体の平均値だけでなく微小領域ごとの違いが重要であり、機能の理解や性能向上のために場所ごとの分光情報が必要とされている。特に、フェムト秒からピコ秒の短時間で進む変化や、一度の照射・反応で状態が変わってしまう試料では、同じ測定を何度も繰り返して画像を作る従来法には限界があった。このような対象を調べるために、一度の照射で多点の分光情報を取得する非走査型の軟X線分析技術が求められていた。

研究グループは、軟X線XFELの単一パルスを活用したフェムト秒軟X線ハイパースペクトル顕微鏡を開発した。計測システムは、研究グループが培ってきた高精度Wolterミラー顕微鏡を基盤に、今回新たに設計・作製したマルチ開口回折格子を組み合わせたもの。Wolterミラー顕微鏡は、広いエネルギー範囲の軟X線像を色収差なく拡大できる反射型光学系であり、軟X線XFELのフェムト秒単一パルス計測に適した全視野顕微鏡として開発されてきた。

今回、この顕微鏡で拡大した2次元像を、417個の微小な開口と回折格子を集積したマルチ開口回折格子に導入した。この素子は、東京大学武田先端知スーパークリーンルームにおいて半導体微細加工技術を用いて作製したもので、拡大像を多数の空間チャンネルに分け、それぞれを同時に分光して2次元検出器に記録する。これにより、単一の軟X線レーザーパルスから、試料の各位置を透過した軟X線のスペクトルを一括取得することが可能になった。これは、通常の顕微鏡像に「各場所の色(エネルギー)ごとの吸収情報」を重ねるような計測であり、試料内部の成分や化学状態の違いを位置ごとに調べることにつながる。

(図)フェムト秒軟X線ハイパースペクトル顕微鏡

兵庫県のX線自由電子レーザー施設SACLAの軟X線ビームラインBL1での実証実験では、視野内の多数の位置でスペクトルを同時に取得し、XFELビーム自体のスペクトルがショットごとに変動するだけでなく、空間的にも不均一であることを可視化した。さらに、窒化ケイ素(SiN)薄膜を試料として、吸収端(104 eV)近傍で試料の有無に応じた透過スペクトルの変化を100フェムト秒以下の時間幅を持つ単一パルスで捉えた。

(図)窒化ケイ素(SiN)薄膜の透過スペクトル計測

今回の成果は、走査を必要としない高速軟X線分光イメージング手法として、将来的な材料・デバイスの局所分析、触媒反応や劣化過程の解析、細胞の損傷を抑えた化学状態マッピング(関連情報②)、XFEL利用実験のためのビーム診断につながる基盤技術となる。今後、光源帯域、検出器、分光素子の高性能化を進めながら、不均一な試料の化学状態をフェムト秒スケールで捉える時空間イメージングへの展開を目指していくとしている。

キーワード:

関連記事

  • 阪大など、超高強度レーザーとXFELでナノ構造内部のプラズマを直接可視化

    大阪大学、ネバダ大学、レーザー技術総合研究所、高輝度光科学研究センター、理化学研究所、関西大学は、ナノワイヤー内部で発生するプラズマの動的な挙動をX線自由電子レーザー(XFEL)を用いて直接可視化することに世界で初めて成…

    2026.06.04
  • 【GW読書におすすめ】身近な光技術を感じる書籍「ひも解くひかり 身近なひかり」

    連休中、少しゆっくりとした時間を過ごしてみてはいかがだろうか。青い空、鏡に映る自分、写真、通信、生命の営み――私たちの身の回りには、あらゆるところに光がある。日常では当たり前に受け止めている現象も、その背後には反射、屈折…

    2026.05.02
  • 東大、細胞内の構造と微粒子の動きを同時観察する顕微鏡を開発

    東京大学の研究グループは、前方散乱光と後方散乱光を同時に定量する「双方向定量散乱顕微鏡」を開発した(ニュースリリース)。 ラベルフリー顕微鏡として広く用いられる定量位相顕微鏡(QPM)は、試料の屈折率分布に起因する前方散…

    2025.11.28
  • 筑波大,神経細胞の構造を10倍の精度で3次元計測

    筑波大学の研究グループは,神経細胞の微細構造を高速かつ高精度に3次元計測する技術を開発した(ニュースリリース)。 脳は一つの神経細胞,またはシナプス結合を基本単位として構成され,それらの形態や構成要素の変化が情報処理の基…

    2025.09.17
  • 阪大ら,時間決定型クライオ光学顕微鏡法を開発

    大阪大学と京都府立医科大学は,光学顕微鏡で観察中の細胞を,任意のタイミングかつミリ秒レベルの時間精度で凍結固定し,そのまま詳細に観察できる技術「時間決定型クライオ光学顕微鏡法」の開発に成功した(ニュースリリース)。 細胞…

    2025.08.27

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア