早稲田大学理工学術院の北智洋教授らの研究グループは、シリコンフォトニクス光集積回路において、従来のシリコンPIN型検出器と比較して約340倍もの検出感度を実現し、かつ光をほとんど減衰させない超小型の光回路モニタを開発した(ニュースリリース)。

この成果は、生成AIの普及に伴い需要が急増しているAIデータセンター用光集積回路や、自動運転向けのLiDAR(ライダー)といった次世代技術の安定動作と省電力化に大きく貢献するものである。本研究成果は、2026年3月4日付の国際学術誌「IEEE Journal of Lightwave Technology」に掲載された。
近年、生成AIによる膨大なデータ処理を支えるため、AIデータセンターでは高速・低消費電力な光通信回路の導入が加速している。また、LiDARなどの光センシング分野においても、チップ上での精密な光制御が不可欠となっている。これらの光集積回路では、温度変化や製造誤差による不安定化を防ぐため、回路内部の光の状態をリアルタイムで監視(モニタリング)する必要がある。しかし、従来の一般的な光検出器は光を吸収することで電流を得る仕組みであるため、監視を行うほど回路内の光が減衰(損失)し、特に回路が大規模化するほどその損失は無視できない課題となっていた。さらに、十分な感度を得るために外部の増幅回路を必要とする場合が多く、消費電力や実装面積の増加もボトルネックとなっていた。
今回の研究で開発されたデバイスは、シリコン導波路内で生じる「マルチモード干渉(MMI)」という物理現象を応用した独自構造を採用している。研究グループは、干渉によって導波路の中央に光電場が集中する位置を特定し、そこに電極を配置した。これにより、光の伝搬をほとんど乱すことなく電極間距離を極限まで短縮することに成功した。この構造により、光によって発生した電荷が回路内で繰り返し流れる「フォトコンダクティブゲイン」が最大化され、光の吸収を増やすことなく光電流を大きく増幅することが可能となった。

実証されたモニタの性能は極めて高く、デバイスの長さはわずか4.7マイクロメートルと超小型でありながら、挿入損失は約0.03デシベルに抑えられている。これは、従来の構造と比較して損失を75分の1まで低減した計算になる。一方で、検出感度は従来のシリコンPIN型検出器の約340倍という驚異的な数値を達成した。また、このモニタはゲルマニウムなどの特殊材料を使用せず、標準的なシリコンのみのシンプルな構造で構成されているため、既存の半導体製造プロセスとの互換性が高く、量産性やコスト面でも大きな優位性を持っている。

今後の展望として、本技術はAIデータセンター向けの次世代実装技術である「Co-Packaged Optics(CPO)」や、LiDARの高精度な光ビーム制御への応用が期待されている。さらに、次世代の超高速通信として注目されるテラヘルツ(THz)波通信用デバイスへの組み込みも視野に入っている。北教授は、低損失性と高感度というトレードオフの関係にある性能を同時に実現した今回の成果を基盤に、将来の光・電波融合技術のさらなる発展を目指すとしている。




