東北大学の研究グループは、シリコン微粒子を樹脂中に分散させた三次元バルクメタマテリアルを用いて、レンズの形状を変えることなく焦点距離が制御できるテラヘルツレンズを開発した(ニュースリリース)。
テラヘルツ波は電波と光の中間に位置する周波数帯(0.1〜10THz)の電磁波であり、多くの物質を透過する性質を持つことから、非破壊検査、医療診断、分光分析など幅広い分野での応用が期待されています。また、近年では 0.10.4THz 帯が次世代通信(6G)の候補周波数帯として注目されている。しかし、テラヘルツ領域では利用可能な光学材料の種類が少なく、屈折率の選択肢も限られているため、レンズやプリズムなどの光学素子を設計する際の自由度が低いという課題がある。
研究グループはこれまで、テラヘルツ波の屈折率を制御できる人工光学材料として、三次元バルクメタマテリアルの研究を進めてきた。今回の研究では、その技術を発展させ、実際の光学素子としてテラヘルツレンズを作製し、その性能を検証した。
この研究では、レンズ形状を変えることなく焦点距離を制御できるテラヘルツレンズの実現を目指し、シリコン微粒子を透明樹脂(COP)中に分散させた材料を用いてレンズを作製した。シリコンはテラヘルツ領域で高い透過率と大きな屈折率を持つ材料であり、これを微粒子として樹脂中に分散させることで、複合材料全体の屈折率を調整することができる。

(a) シリコン微粒子を透明樹脂中に分散させた三次元バルクメタマテリアルによるテラヘルツレンズの概念図。(b) シリコン微粒子分散材料の有効媒質モデル。
今回用いた三次元バルクメタマテリアルによるテラヘルツレンズは、透明樹脂中に分散したシリコン微粒子によって材料の実効屈折率neffが決まり、テラヘルツ波を集光することができる。さらに、シリコン粒子の濃度を変えることで材料の屈折率を調整できるため、レンズ形状を変えることなく焦点距離を制御することが可能になる。
このレンズは、シリコン微粒子と透明樹脂粉末を所定の割合で混合し、その混合材料を金型に充填して COP のみを加熱・溶融することでレンズを形成した。材料を段階的に投入しながら加熱することで内部に気泡が生じることを防ぎ、シリコン微粒子が均一に分散した複合材料構造を実現している。この方法により、シリコン粒子濃度に応じて屈折率が変化する三次元バルクメタマテリアルレンズを作製した。
この研究では、同一形状のレンズを用いながら、シリコン粒子の体積濃度を変えることで材料の屈折率を制御した。具体的には、粒子濃度を0%、5%、25%とした3種類のレンズを作製した。実際に作製したテラヘルツレンズはシリコン粒子濃度の違いによって外観は異なるが、いずれも同一形状のレンズとして成形されている。作製したレンズについて、テラヘルツ周波数で焦点距離を測定した。その結果、シリコン粒子濃度が高くなるほど焦点距離が短くなることが確認された。例えば0.10THzでは、粒子濃度0%のレンズで約33 mm、5%で約31 mm、25%で約24 mmの焦点距離となった。

(a) シリコン粒子濃度0%(透明樹脂のみで構成)で作製したテラヘルツレンズ。
(b) シリコン粒子濃度 5%で作製したテラヘルツレンズ。(c) シリコン粒子濃度
25%で作製したテラヘルツレンズ。
これらの結果から、レンズ形状を変えることなく材料設計によって焦点距離を制御できることが実験的に示された。この研究の結果は、材料の組成設計によってテラヘルツ光学素子の特性を調整できることを示しており、テラヘルツ領域における新しい光学材料および光学素子設計の可能性を示すものだという。
今回開発した材料は、テラヘルツ領域において約1.5〜2.0程度の広い屈折率範囲を実現できる材料となっている。また、粒子濃度を調整するだけで屈折率を制御できるため、同じ製造プロセスを用いながら異なる光学特性を持つ材料を作製することが可能になる。今後は、この研究で実証したテラヘルツレンズに加えて、テラヘルツ分光用プリズムや光学フィルムなど、さまざまなテラヘルツ光学素子への応用が期待される。さらに、テラヘルツ波は空港などでの危険物検査、医療診断、半導体検査などの分野での利用が期待されており、本研究成果はこれらのテラヘルツ応用技術の発展にも貢献するとしている。



