東大と理研、フォノン起源の巨大光起電力を観測

東京大学と理化学研究所創発物性科学研究センターの研究グループは、強誘電体SbSI(ヨウ化硫化アンチモン)において、フォノン(格子振動)起源のテラヘルツ領域における巨大な光起電力効果を実現した(ニュースリリース)。

(図)強誘電体のフォノンによる光電流生成を示す模式図

テラヘルツ帯は、新しい通信方式や高感度センシングへの応用が期待される一方で、光源や検出器をはじめとする基礎技術の整備はいまだ十分とは言えない状況にある。一般的に、実用化に当たっては安定した光源が利用でき、なおかつ照射された光を検出し、定量する技術が必要となる。こうした技術なしには、実用化は困難。実際、可視光や近赤外光の領域では、光を高効率かつ高速に検出する技術体系がすでに確立されているのに対し、テラヘルツ光に対するそれは発展途上にある。特に、テラヘルツ光を直接電気信号へ変換することで検出や定量をする手法は未成熟であり、その確立が大きな課題となっている。テラヘルツ帯においても可視光領域と同等の性能を有する光検出技術を実現することが、現在のフォトニクス研究における重要な目標の一つとなっている。

可視光領域では光照射によって物質中に電流や電圧が生じる光起電力効果が光検出の基本原理として広く利用されている。しかし、この現象は電子励起を介する必要があるため、可視光の1000分の1程度のエネルギーしかもたないテラヘルツ光では電子励起がそもそも起こらず、そのまま適用することは原理的に困難であった。

今回の研究では、これまでに研究を行ったBaTiO3(チタン酸バリウム)に並ぶ代表的な強誘電体であるSbSIを用いて、テラヘルツ光照射時における光電流測定を行なった。その結果、テラヘルツ光パルスを試料に照射すると、瞬時に強誘電分極の向きに反平行な方向に光電流が生成されることが確認され、光起電力効果に特徴的な挙動が明瞭に観測された。

さらに、この光電流応答の周波数特性を定量的に評価する新しい手法を開発した。その結果、観測された周波数依存性はフォノン励起に対して期待される挙動とよく一致しており、本現象がフォノン励起に起因していることが明確に示された。得られた光電流の生成効率は、これまでに報告されてきた光起電力効果の中でも最大級の大きさをもつことが分かった。第一原理計算に基づいて理論的にも性能指数を評価したところ、実験で得られた値とよく一致した。このことから、今回観測された光起電力効果は、フォノン励起によって電子の波動関数が変調されることが本質であり、そこに量子幾何効果が重要な役割を果たしていることが明らかになった。

この研究は、強誘電体中のフォノン励起に着目し、テラヘルツ帯において高効率な光電変換が可能であることを実験と理論の両面から示したものだという。テラヘルツ波は次世代通信の基盤技術として注目されている周波数帯であり、その高感度・高速検出の実現は重要な課題となっている。今回の成果で見いだされた巨大な性能指数を活かすことで、テラヘルツ光を高速かつ高効率に電気信号へ変換する、全く新しい原理の検出器へと発展させることが期待される。

現在主流である熱感知型の検出器は応答速度に限界があるが、この手法はそれを大きく上回る高速応答を可能にするポテンシャルを有している。この成果は、テラヘルツ帯を用いた通信・計測・センシング技術の高度化に向けた新たな指針を与えるものであり、次世代光デバイス創成への重要な一歩となる。

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