早稲田大学は,キラル物質に光を照射すると,指向性のある電流が発生すると同時に,照射した光の整数倍の周波数を持つ光が発生することを理論的に発見した(ニュースリリース)。
太陽電池で誘起される電流は,光の照射方向や偏光,強度に依らず,常に決まった方向に流れる。一方,これらの光のパラメータを変えることで,電流のオン・オフや,電流の向きのスイッチングが実現できれば,エレクトロニクス技術への応用の可能性が大きく広がる。
研究では結晶構造自体が方向性を持つ「キラル結晶物質」に着目した。キラル結晶は,鏡像と重ね合わせられない非対称構造をもつ物質であり,物質中に空間的な「向き」をもつ。
このような「向き」を持つキラル結晶物質に光を照射することで,結晶の向きと光の向きの相対的な関係に依存した指向性を持つ応答が起こるのではないかと考えた。そこで,コバルトとケイ素という2種類の元素から構成され,B20型と呼ばれるキラル結晶構造を持つCoSiという化合物に着目し,その光照射に対する応答を調べた。
具体的には,CoSiに円偏光レーザー光を照射したときに起こる現象を,時間周期的な外場である「光の振動電磁場」で駆動された系を記述するフロケ理論と呼ばれる理論手法を用いて,コンピュータによる数値計算を行なった。その結果,制御可能な光電流生成と,照射した光の整数倍の周波数を持つ光が発生する高次高調波発生が起こることを理論的に発見した。
レーザー光の照射により発生する電流の大きさを3種類の周波数の光について計算した。今回の設定では,光の入射方向と同じ方向に電流が流れる。これはキラル結晶構造に由来する特徴的な光応答の一つであり,左円偏光と右円偏光で電流の向きが反転することが判明した。
さらにレーザー光の強度や周波数を変化させると,電流の向きが変化しており,光の強度や周波数を変えることで,光により生成される電流の向きをスイッチングできることが分かった。
また,照射したレーザー光の整数倍の周波数を持つ光が発生する,高次高調波発生について計算した結果,整数倍の周波数の偶奇に応じた特定の方向に光が発生・伝播することが分かった。理論的な解析の結果,この現象もキラル結晶構造に由来する光応答であり,放射される光に整数倍の周波数の偶奇に応じた指向性があることが分かった。
これは,キラル結晶物質が光の周波数と進行方向を変換する素子として活用できることを示すもの。研究グループは,キラル構造に由来する指向性を活かすことで,光スイッチや光整流素子による低消費電力・高効率な次世代光エレクトロニクス技術の発展に貢献するとしている。