東京科学大学の研究グループは,キラルなナノ道具を作製し,それを活用して非キラルな金属含有色素に強い光学活性を付与することに成功した(ニュースリリース)。
生体では,光学活性なアミノ酸からなる柔らかい脂肪族キラル空間を利用して,優れた分子識別や変換を行なっている。一方,人工的な芳香環キラル空間は,生体にない硬い骨格に由来した高い機能が期待されるが,その合成や機能はほぼ未開拓だった。そこで研究では,金属含有色素を効率的に内包できる新たな芳香環キラル空間の創出とその機能開拓を目指した。
まず,両親媒性分子sBAMを市販の化合物から5ステップで合成した。この分子を水に溶かすだけで,キラルカプセル(sBAM)nが定量的に形成された。このキラルカプセルを分析したところ,12個のsBAMからなる,平均直径が約3nmの球形集合体の形成が示された。
また,カプセルの紫外可視スペクトルでは,310〜355nmにビナフチル骨格に由来した吸収帯を示し,さらに,芳香環キラル空間の形成が確認できた。カプセル形成による蛍光効率の向上(1.3倍)も見られた。また,鏡写しの立体関係にあるキラルカプセル(rBAM)nも同様に作製した。
得られたキラルカプセル(sBAM)nをナノ道具として活用することで,種々の金属含有色素を効率的に内包して,優れたキラル光学特性を発現させた。
この手法はさまざまな金属含有色素に適用でき,白金,銅,パラジウムを含有するポルフィリン色素や反芳香族性のニッケル含有ノルコロール色素NiDNでも,キラルカプセルの効率的な内包によって,強い光学活性の付与にも成功した。
さらに,通常は光学活性化が極めて困難な,剛直で平面的な構造体である銅含有フタロシアニン色素CuPcに対しても,キラルカプセルをナノ道具として活用することで,光学活性を付与できた。光学活性化の鍵は,軸不斉骨格と色素骨格の効率的な分子間CH-πおよびπ-π相互作用があることが示された。
この金属含有色素の内包体を加熱したところ,内包状態を維持したままで,光学活性が熱刺激に応答して変化することが明らかとなり,用いる金属含有色素を変えることで,光学活性の挙動を容易に調整できることがわかった。
研究グループは今後,さまざまな機能を持つ金属含有色素をこのナノ道具を用いて光学活性化することで,新たなセキュリティ技術やメモリー材料,キラル触媒などへの応用が期待されるとしている。




