東京大学の研究グループは、熱輸送を制御することができるフォノニックナノ構造を、その特性を維持しつつ、約1,000倍以上高速に作成できる手法を提案した(ニュースリリース)。

近年、スマートフォンやPCを始めとする様々な電子機器の小型化、電力密度の増加に伴って、内部での発熱の管理が問題となっており、放熱設計や、捨てられる熱エネルギーの有効利用が重要とされている。このようなサーマルマネジメントにおいて、格子振動の量子であるフォノンの輸送制御が、中核的な課題の一つとなっている。
そこで、フォノニックナノ構造による熱輸送の制御技術が注目されてきたが、ナノ構造の作製には電子ビームリソグラフィなどの高コストで時間の要する手法が主に用いられ、実用化に向いていないことが大きな課題となっていた。
そこで今回の研究では、フォノニックナノ構造を高スループットで作製することを目的とし、フェムト秒レーザー誘起周期表面構造(fs-LIPSS)を活用してフォノン輸送制御を行なった。
研究グループは、レーザー加工条件の最適化によりfs-LIPSSの高均一化を行ない、さらにドライエッチングを施すことで酸化膜を除去、薄膜化に成功した。今回の研究の実験条件では、従来の収束イオンビームの10万倍、電子ビームリソグラフィの1,000倍以上の高速で、ナノ構造を製造できることを実証した。また、従来のフォトリソグラフィに比べて微細な構造が作製でき、非常にシンプルな装置で実装できる特徴を持つ。

この手法により作製したナノ構造は、既存のシリコン薄膜と比較して、熱伝導率が約25%低い(101W/m/K→76W/m/K)ことが分かった。この値は単に膜を薄くした場合に予測される従来の理論限界を下回るもので、ナノ構造が熱エネルギーの輸送を有効に阻害していることを示唆している。
また、fs-LIPSSの角度によらず、等方的に熱伝導率が減少していることが分かる。フォノンのモンテカルロシミュレーションを行なった結果、fs-LIPSSの表面粗さはレーザー加工によって増大され、そのためフォノンが散乱しやすくなり等方的な熱伝導をもたらしていることが分かった。
研究グループは、今回の成果は、そのような基礎研究成果を社会実装に繋ぐための重要なマイルストーンであり、高性能コンピューティング、オンチップエネルギー変換、量子デバイスなど、サーマルマネジメントが鍵となる分野への応用が大きく広がると期待されるとしている。