CYBOなど、世界初の臨床グレード自律型デジタル細胞診システムを開発

CYBOとがん研究会は、子宮頸がん検診などで広く用いられる細胞診の分野で、世界初となる「ホールスライド・エッジ・トモグラフィー」および細胞検査士や専門医の検査技術を学ばせたAI解析ソフトを搭載した臨床グレード自律型デジタル細胞診システムを開発し、2月18日に報道者向けの記者会見が行なわれた(ニュースリリース)。

(写真)左からがん研究会有明病院 病院長 佐野武氏・がん研究会有明病院 細胞診断部 部長 千葉知宏氏・CYBO 代表取締役社長 新田尚氏・CYBO 取締役CSO/東京大学 教授 合田圭介氏

細胞診は、体から採取した細胞を顕微鏡で観察し、異常細胞(異型細胞)の有無から、がん・炎症・ホルモン状態などを調べる病理検査。子宮頸がん検診(子宮頸部細胞診)がよく知られているが、尿、喀痰、胸水、甲状腺、乳腺など多くの臨床領域で広く実施され、患者への負担が少ないことから、がんの早期発見に極めて有用となっている。

特に子宮頸がんは、多くがヒトパピローマウイルス(HPV)感染を起点とし、検診によって前がん病変の段階で発見・治療が可能ながんであり、形態観察に基づく細胞診は重要な役割を担ってきた。しかし一方で、細胞検査士や病理医(細胞診専門医)の不足、鏡検業務の負荷の高さ、細胞所見の判定の標準化や品質保証など、細胞診には長年にわたり解決すべき課題が存在していた。

近年、病理分野ではデジタル化やAIによる診断支援が進展しているが、細胞診標本は厚みがあり細胞が重なり合うため、従来の2Dスキャナでは個々の細胞を十分に観察できない。また画素数やデータ量の制約もあり、スライド全体を立体的(3D)にデジタル化し、そのままAI解析につなげることは困難だった。

今回の研究では、1枚のスライドに含まれる多数(1万〜100万個規模)の細胞を高解像度3Dで高速デジタル化できる光学撮像基盤を構築するとともに、そのデータを用いて臨床グレードの自律型デジタル細胞診システムを実現することを目指した。さらに、このシステムが実臨床に応用可能であることを多施設研究により検証し、細胞診の新たなデジタル基盤となり得ることを示すことを目的とした。

今回の研究では、細胞診標本のスライド全体を対象に高解像度3D細胞画像を高速取得できる新技術「ホールスライド・エッジ・トモグラフィー」を開発した。この技術はCYBOの開発チームが設計・実装を主導し、がん研有明病院の細胞検査士および細胞診専門医から、核の見え方やクロマチンパターンなど診断に不可欠な形態情報をどのように再現すべきかについて継続的にフィードバックを受けながら、両者が密接に連携して臨床ニーズに即した形で完成させたものだという。

(写真)がん研究会有明病院 細胞診断部内(検査士7名が所属)

加えて、スライド標本上の全視野を対象にデジタル撮像を行ないながら、リアルタイムで画像再構成・圧縮する機能を実装することで、撮像速度・画質・データ容量の最適なバランスを実現した。これにより、立体構造を持つ細胞診標本を実用的なスピードで高精細にデジタル化し、デジタル細胞観察やAI解析に適したデータ形式で保存・転送できることを示した。

AI解析では、デジタル化したスライド標本データに含まれる、一標本あたり数万から多い場合は百万個程度にもおよぶ大量の細胞を検出し、その細胞一つずつをLSIL(軽度扁平上皮内病変)やHSIL(高度扁平上皮内病変)などの異型細胞、ならびに各種の正常細胞として細胞タイプ分類する画像認識モデルを開発した。

この細胞タイプ分類モデルの構築にあたっては、がん研有明病院の熟練した細胞検査士・細胞診専門医が中心となり、代表的な症例を含む多数の細胞像について、LSIL、HSILをはじめとする各種の細胞を丁寧にアノテーションした。

こうして作成された高品質な教師データを用いて学習することで、未知の標本に含まれる細胞であっても、同様の細胞タイプ分類を自動で高精度に行なえるモデルを実現した。さらにこの画像認識モデルを活用して、画像から抽出した形態特徴量に基づいて細胞をラベル付けする「形態分化クラスター(CMD)」を取得した。

CMDは、フローサイトメトリーで用いられる分化クラスター(CD)に相当する概念であり、細胞の特徴を数値化したもので、散布図やヒストグラム、UMAPなどの可視化を通じて、大規模な細胞集団の形態ランドスケープを直感的に探索することを可能にするという。

CMD空間上では、上皮細胞の分化や腫瘍化に対応する連続的な形態の軌跡が観察され、HPV陽性・陰性や診断グレードの違いに応じて細胞集団の分布が系統的に変化することが定量的に示された。これにより、従来のカテゴリーラベルだけでは捉えにくい中間状態も含めて、標本上の細胞集団全体での定量的な細胞診が可能になることを示した。

さらに、がん研有明病院、筑波大学附属病院、順天堂大学医学部附属浦安病院、下越総合健康開発センターの4施設から収集した合計1,124例の子宮頸部液状化検体細胞診標本を用いて、多施設共同によるスライド単位の性能評価を行なった。

AIモデルは、LSIL陽性(LSIL⁺)症例の検出においてAUC 0.86〜0.91、HSIL陽性(HSIL⁺)症例の検出においてAUC 0.89〜 0.97を示し、施設や症例構成が異なる条件下でも一貫して高い性能を維持することが分かった。

スライドごとのLSIL細胞数はHPV検査の陽性率と強く相関し、HSIL細胞数は病理診断の重症度が高くなるほど増加するなど、AIが算出した細胞カウントが臨床的なリスク指標と良好に対応することも確認された。

さらに、HPV検査結果をリファレンスとした専門家とAIの細胞診検査精度の比較では、専門家のASC-US以上(ASC-US⁺)を陽性とするトリアージと比較して、AIモデルがいずれの施設においても高い性能を示した。

これらの結果から、このシステムは単に異型細胞を検出して検査の効率を向上させる補助ツールにとどまらず、細胞診標本に含まれる大量の単一細胞を自律的かつ定量的に評価し、症例ごとのリスク層別化やトリアージに利用し得ることが示された。

ホールスライド・エッジ・トモグラフィーは、CYBOより「CYBO Scan」として製品化しており、東京セントラルパソロジーラボラトリー(東京都八王子市)に導入済み。現在も複数の医療機関で導入に向けた評価が進められており、細胞診標本を高精細な3Dデジタルデータとして取得・保存できるインフラストラクチャとしての役割を担い始めているという。

(写真)デジタル細胞診システム「CYBO Scan」

また、医療機器メーカーの日本精密測器において「CYBO Scan」の量産ラインを立ち上げるなど、供給体制の整備も進めている。さらに、今回の研究で開発したCMD(形態分化クラスター)を活用した子宮頸部細胞診用AI解析ソフトについても、製品名「CYBO AI Cervix」として導入に向けた評価試験を複数の施設で実施しており、細胞診の現場で実際の検体に対する性能やワークフローへの適合性を検証している段階だとしている。

今後は、子宮頸がん検診における精度管理やスクリーニング支援、トリアージ細胞診、HPV陽性者のリスク層別化ツールなどとしての活用を見据えつつ、今回発表した臨床グレード自律型デジタル細胞診システムについて、さらなる臨床評価の拡充や薬機法上の医療機器としての位置付けに向けた検討を進めていくという。

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