分子科学研究所(分子研)、総合研究大学院大学(総研大)、大阪大学(阪大)は、分子研の極端紫外光研究施設(UVSOR)の放射光と光電子運動量顕微鏡(PMM)にスピンローテーターと2次元スピンフィルターを組み合わせ、金(Au)表面ラシュバ状態のスピン配向を符号付きで決定したと発表した(ニュースリリース)。
Au表面では、最表面に電子がとどまって運動するショックレー表面状態と呼ばれる量子状態が現れる。表面では上下(深さ)方向に強い電場が生じるため、電子の運動方向とスピン(微小な磁石の向き)が結び付くラシュバ効果が起こり、電子の状態はスピンの向きが逆の2本の輪(バンド)に分かれる。
しかし、この2本のうち、どちらが右回り(時計回り)、どちらが左回り(反時計回り)のスピン配置なのかについては、測定法や座標系の取り方の違いなどの混乱から、約20年間にわたり論文間で見解が割れていた。この研究は、この長年の論争を、PMMを用いた高効率・高信頼のスピン全体像マッピングで決着させることを目的に進めてきたという。
研究は、分子科学研究所・UVSORの放射光ビームライン(BL6Uの軟X線、BL7Uの真空紫外光)とPMMを組み合わせ、スピンローテーター、2次元スピンフィルター、多チャンネル検出器を直列に配置した独自の構成で、Au表面状態の「運動量空間の2次元スナップショット」を取得した。
その結果、外側の電子バンドが時計回り、内側の電子バンドが反時計回りというスピン配置であることを、符号(向き)まで含めて明確に実証した。さらに、法線入射のVUV光で偏光を切り替えて測定すると、電場ベクトルと直交する放出方向では表面状態の信号が消失することを確認した。
これは、表面状態の主成分が金原子の6s・6pz軌道であることを示す「遷移行列要素」に合致し、軌道(電子の波の形)の正体も実験的に特定したことを意味する。これらの結果に基づいて模式図を作成した。
今回確立した「2次元のスピンと原子軌道の同時マッピング」は、材料ごとに共通指標となる「基準データ」を短時間で得られる実験手法。スピンの方向や強さを材料設計に活かすスピントロニクス分野では、信頼できる参照データが装置開発や材料探索の効率や理論研究の進展を大きく左右する。
この成果により、Au表面のスピン配置に関する混乱が解消され、他の金属・半導体・トポロジカル材料へも同じ測定作法を展開する道筋が整ったという。将来的には、スピンを使って低消費電力で動作するメモリ・論理素子、超高感度センサーなどの実現に寄与すると期待されている。






