NTT R&Dフォーラム2025で見えた光技術の現在

著者: 梅村 舞香

NTTは、最新のR&D関連の取り組みを紹介する「NTT R&D FORUM 2025」を11月19日(水)~21日(金)、25日(火)~26日(水)の6日間にわたり,NTT武蔵野研究開発センタ内において開催する。これに先立つ11月18日(火)にはメディア向けの基調講演および内覧会、記者会見を行なった。

NTT R&D FORUMは、NTTの最新技術や研究開発を展示するイベントで年に一度開催されている。今年は「IOWN∴Quantum Leap」をコンセプトに、IOWN 2.0 光コンピューティング技術、NTT版生成AI tsuzumiの次期バージョンに加え、光量子コンピューティングなどについて紹介している。

11月18日にNTT武蔵野研究開発センタで行われたメディア向け内覧会ー撮影 梅村舞香

近年、新薬の開発や新材料の設計、金融の最適化や気候変動の予測など、従来のコンピュータでは計算に膨大な時間を要する複雑な課題に対して、量子コンピュータの活用が期待されている。こうした中、光の特性を活用する光量子コンピュータは、消費電力が低く、常温・常圧で動作可能な新しいアプローチとして注目されている。

18日には、R&D FORUM内で光量子コンピュータに関する記者会見が行われた。NTTは東京大学・古澤研究室の技術を基盤に、世界トップレベルを狙う光量子ベンチャー企業OptQCと長年にわたり光の技術開発を行なう光量子コンピュータの早期実用化をめざして、連携協定を結んだ(詳細記事)。

次にNTT代表取締役社長の島田 明氏は、IOWN光コンピューティングと光量子コンピュータを中心に、光技術の開発状況を紹介した。

AI時代のコンピューティングを支える低消費電力インフラの実現

AIは急速に普及し、ChatGPTはわずか5日で100万ユーザー、2カ月で1億ユーザーに到達した。2030年にはAI市場が約270兆円に成長すると予測されるなど、拡大の勢いは止まらない。AIの利用拡大に伴い、開発・運用に使われるコンピューターも巨大化している。

GPT-3の運用には約1万枚のGPUが用いられていたが、GPT-4では2万5000枚、最新では20万枚規模に達すると言われている。大量のGPUを相互接続するため、毎秒Blu-ray72枚分もの膨大なデータ通信が発生し、その裏で深刻な問題となっているのが電力消費。電気による通信は伝送距離が伸びるほど電力が増加する一方、光通信は距離が伸びても消費電力がほとんど変わらず、AIの電力問題を解決する技術として期待されている。

この課題に対して同社が推進しているのが光通信基盤「IOWN」で、すでにデータセンター間接続を担う「IOWN 1.0(APN 1.0)」が商用化されている。2028年頃に商用化が見込まれる「IOWN 3.0」ではパッケージ間を光で直接接続し、大幅な電力削減を実現する。さらに2032年頃を目標とする「IOWN 4.0」ではパッケージ内部まで光化し、現在の1/100という圧倒的な電力効率を目指しているという。

NTT 代表取締役社長 CEO 島田明氏

従来のコンピュータでは現実的に解けなかった問題を低消費電力で解決

同社が進める光関連技術のもう一つの柱が光量子コンピュータ。問題の種類によって必要な量子ビット数は異なり、最適化計算などでは1万量子ビット、流体解析のような大規模計算では100万〜1億量子ビットが必要になる。

従来の量子コンピュータ方式(超伝導・中性原子・イオントラップなど)は、極低温や高真空といった特殊な環境が欠かせず、大型設備や電力消費が課題だった。

一方、同社が注目する光量子方式は、常温・大気中で動作でき、省スペース・低消費電力でスケールしやすい点が大きな強み。さらに光の高速性や、同社の光通信技術を応用できるため、開発コストも抑えられる。こうした特徴から、他方式よりも量子ビット数を増やしやすいと期待されている。

島田氏は「NTTは光技術を用いて、エネルギーの限界や従来の計算処理の限界を超えてコンピューティングの革新を実現していく。現在世界ではAIの進展によってかつてない変革を迎えているが、NTTはAI時代を支えるインフラを提供するだけでなく、さらにその先の量子コンピューティングの革新を通じてサステナブルな未来の実現に貢献していく」と述べ、基調講演を結んだ。

■DCIにおける光電融合の役割
生成AIの急速な普及により、膨大な計算を行なうためのGPUなどのリソース需要が爆発的に増加し、それに伴う電力消費も深刻な問題となっている。高価なGPUを大量に確保しつつ、いかに効率よく動かし、消費電力を抑えるかは、現代のデータセンタにとって避けられない課題である。

DCIは、IOWN2.0以降においてPEC(光電融合)をコンピューティングの領域に適用した新しいデータ処理基盤でコントローラソフトとハードウェアの2つで構成されている。DCIコントローラソフトは、アプリ共通で使える処理最適化機能を提供し、所要リソースやアプリ開発コストの低減に寄与する。またアプリの最適配置によるGPU利用効率の最大化・省電力を制御するという。

DCIハードウェアは、コンポーザブルサーバとGPUサーバがあり、多数の演算リソースを高速広帯域で接続しプール化、コントローラーの要求に応じフレキシブルに提供する。

51.2Tbit/sのスイッチIC近傍にPEC-2の光エンジンを集積することで、スイッチ装置内部の電気配線を光に置き換え可能となり、超広帯域かつ低消費電力なネットワークスイッチを実現。大量のアクセラレータを接続する大規模な構成を単一のスイッチで低消費電力に構築可能だという。

光電融合スイッチ(51.2Tbit/s)試作機

光電融合技術の開発とコンピューティングへの実装、柔軟かつ高精度なコンピュータリソースの制御により、革新的な電力効率の実現を目指すとしている。

■光量子コンピューター
光量子コンピューターの課題は、高品質な量子光の生成とその正確な検出、そして量子光を低損失で伝送・操作する技術である。これらを実現するには、高精度な光デバイスが不可欠であり、その基盤となる微細加工技術の高度化が光量子コンピューターの実用化を左右するといえる。

光量子コンピューターの心臓部=PPLN導波路

同社は独自に開発した量子光源により、量子ノイズ圧縮率85%超を達成。広帯域動作が可能な導波路型デバイスとしては世界最高性能を実現した。また光通信技術との融合によって、世界最速となる63GHzの量子もつれ生成・検出にも成功している。

■IOWNデバイスの宇宙通信活用
衛星間通信は現在、電波方式から光レーザー通信への大きな転換期を迎えている。近距離から遠距離まで多様な軌道を飛ぶ衛星同士が、高速・大容量・長距離でデータをやり取りできる光通信端末の実現が強く求められている。

宇宙光通信に活きる同社の技術を2つ紹介していた。1つ目はデジタルコヒーレント光伝送技術。光の波としての性質を利用し、振幅・位相・偏波に情報を多重化することで大容量伝送を可能にする技術だ。受信側では高度なデジタル信号処理(DSP)によって波形歪みを補償し、長距離でも高品質な通信を実現する。

2つ目はCo-package化による小型・省電力化。DSP、光電変換機能を備えたシリコンフォトニクス回路、そしてアナログ電子回路を1つのパッケージに統合することで、メタル配線を大幅に短縮。結果として、光通信端末の圧倒的な小型化と低消費電力化を達成した。

■電力を長距離伝送するワイヤレスレーザー技術
レーザーを用いて1km以上離れた相手に電力を送る無線電力伝送技術は、ドローンやHAPSの長時間運用、災害現場での給電などへの応用が期待されている。しかし、実用化には高い伝送効率と安定性の確保が不可欠となっている。

同社は今年9月、三菱重工とともに、大気の揺らぎが大きい環境下におけるレーザー無線給電で世界最高効率を達成した。今回、レーザー整形技術を実演していた。

レーザー整形技術のデモ

この技術では、ビームの形状と位相を高度に制御することで、1km先の受光パネルに光を正確に収めつつ、均一に照射することを可能にしている。独自設計の回折光学素子を用いてレーザー光の強度分布を最適化し、従来では難しかった長距離かつ高効率の電力伝送を実現する点が大きな特徴となっている。

■衛星上でのハイパースペクトル分析
迅速な災害状況の把握や農業分野での生育診断、設備異常の検知などに活用が期待されるハイパースペクトル画像(HSI)だが、RGBやSAR画像と比べてデータ量が非常に大きく、解析も複雑なため、リアルタイムでの活用が難しいという課題がある。特に衛星からのデータ取得では、衛星上での効率的な処理とデータ圧縮が重要となっている。

同社はこの課題に対し、衛星上で異常検知アルゴリズムを動作させ、異常が検知された部分のみを地上へ送信する方式を採用。これにより、データ量を96%削減することに成功した。

軌道上実証した衛星に搭載されているコンピュータと同型機「NVIDIA Jetson TX2」

RGB画像(可視光3バンド)に比べ、HSIは多数の波長情報を持つため、目視では判別できない物質の特徴や材質の違いまで把握できるのが強み。今回の技術は、その高い分析能力を維持しつつ、実運用でのハードルであったデータ量の問題を大幅に改善するものとなっている。

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