北大ら,分光画像を空間の繋がりから読み解く新手法

著者: 梅村 舞香

北海道大学,大阪大学,京都府立医科大学は,ラマン分光計測に対して,化学的な周辺環境を表す新しい尺度を定義し,それに基づいた新しい解析手法の開発に成功した(ニュースリリース)。

生体組織内の分子の種類や分布を調べるためにラマン分光顕微鏡を使用することができる。ラマン分光顕微鏡は試料から生じる特異な光の波長を細かく分けて観察する。

それぞれの波長は分子の種類を,そして光の強さは分子の量を反映するために,どの分子がどこにどれだけあるのかを知ることができる。一般的な写真は赤・緑・青の三つの光の情報しか持たないのに対し,ラマン分光顕微鏡で得られる画像データは,ピクセルごとに数百種類もの詳細な色の情報を含んでいる。

この画像データでは,一つ一つのピクセルが数百もの特徴量を持っており,このような多次元のデータをスペクトルと呼ぶ。多変量解析という手法を用いると,スペクトルの違いを読み解き,このピクセルはビタミンAが多いといった形で,化学的な性質に基づいて画像を色分けすることができる。

ただし,これまでの解析はジグソーパズルのピース単体の絵柄だけを見て分類するようなものだった。各ピクセルが持つ化学情報だけに着目し,そのピースが本来置かれている場所や,隣のピースとの関係性といった空間的な文脈は無視されてきた。

研究グループは,スペクトル間の違いを数値化し,各ピクセルが持つ違いのデータ群からヒストグラムを作成し,そのヒストグラムの形状に基づいてグループ分けを行なった。分類には情報ボトルネック法と呼ばれる情報理論的な手法を応用した。

今回の研究では,開発した新手法を実際の医療課題に応用するため,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を持つラットの肝臓組織をラマン分光顕微鏡で計測・解析した。高脂肪食を与えた後に軽度な非アルコール性脂肪肝(NAFL)と,より重度な非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の状態になった肝臓を用い,病理医による病理診断の結果と研究グループによる解析結果を比較した。

提案手法による解析の結果,重度であるNASHの組織では局所的な化学環境が空間的に均質であると確認された。軽度なNAFLと診断された組織の一部にも,NASHで見られる均質なパターンが既に現れていた。

さらに,従来法とこの手法の結果を比較分析したところ,特定の分子の増減と,局所的な化学環境の均質化が同時に進行することを突き止めた。加えて,一部のNASH組織ではこの傾向から外れる部分が見つかった。

研究グループは,この成果は,アスベストやマイクロプラスチックの検出,腫瘍の中に局所的に存在する特殊な分子の発見などへの応用が期待されるとしている。

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