東大ら,電子の自転公転のもつれを放射光X線で観測 

東京大学,高輝度光科学研究センター,近畿大学,東北大学,理化学研究所は,ランタノイド元素周りに存在する4f電子の空間的な広がりを世界で初めて直接観測した(ニュースリリース)。

4f電子は,4f軌道に入る電子で,外側の軌道にある電子に覆われているため周囲の原子の影響を受けにくい一方で,強いスピン-軌道相互作用を示す。これは,電子のスピン(自転)と軌道回転(公転)運動が強く結びついた状態のことで,物質の磁気的性質や発光特性,さらには量子状態の安定性を決める大きな要因になる。

したがって,4f電子の姿を直接とらえることは,物質の性質を理解するうえで重要な手がかりになる。しかし,4f電子の数は原子全体の電子の中では少なく,その信号も非常に弱いため,これまでその分布を直接観測することは困難だった。

研究グループは,日本最大の放射光施設SPring-8で得られる高エネルギーX線と,独自に開発したCDFS法を組み合わせ,価電子密度分布を高精度に観測することでこの課題を克服した。ここで重要なのは,観測対象が原子全体の電子ではなく価電子である点。

ランタノイド元素の周りには,数個の4f電子と54個の内殻電子があるが,前者のみを選択することで高精度な観測が可能になった。これまで研究グループは,遷移金属における3d電子や分子性結晶における結合電子を可視化してきたが,4f電子の直接観測は世界初の試みとなっている。

多数の内殻電子は強い散乱を生むが,それを第一原理計算で精密に再現し,その影響を差し引くことで,4f電子の直接観測に挑みた。

研究対象としたのは,パイロクロア型イリジウム酸化物A2Ir2O7(A= プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),ユウロピウム(Eu))。これらは量子スピン液体や異常ホール効果など多彩な量子現象を示すことで知られ,電子状態を直接調べる意義が大きい物質となっている。

CDFS法によって価電子密度分布を可視化した結果,PrやNdの周りでは4f電子が方向によって分布が異なるのに対し,Euでは球対称的な分布が観測された。これらはスピン-軌道相互作用と周囲のイオンの影響を考慮した理論計算とよく一致し,スピンと軌道が強くもつれ合ったスピン-軌道相互作用の姿を,世界で初めて実空間で直接捉えたことを示している。

研究グループは,今回の成果は,これまで間接的にしか確認できなかった4f電子の姿を直接可視化したものであり,今後,磁石材料や量子コンピュータ材料の研究開発に貢献することが期待されるとしている。

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