東京大学の研究グループは,完全密閉型LED植物工場での大玉トマトの安定栽培に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年,世界各地で顕在化する異常気象や急速に進む都市化により,従来の露地栽培や温室栽培に依存した食料生産体制の脆弱性が浮き彫りになっている。特に,都市内部や資源の限られた環境,さらには宇宙空間のような極限環境において安定的な食料生産を実現するためには,気象条件に左右されないLED植物工場の確立が不可欠となっている。
しかし,光合成の要求量が非常に大きい果菜類,特に高糖度・高着色が求められる大玉トマトについては,LED照明では十分な品質や収量が得られないと長らく考えられ,実用化の動きは限定的だった。研究グループは,これまでにLED植物工場におけるミニトマトの高品質栽培を世界に先駆けて成功させたが,大玉トマトの完全人工光型栽培については,実現されていなかった。
そこで大玉トマトの代表的品種「CF桃太郎ファイト」を用いて,LEDのみを光源とするLED植物工場と,自然光を主体とする温室とを,同一品種・同一時期・同一栽培基質で比較する試験を実施した。LED植物工場では,気温(25.9±1.1℃)と光強度(276µmol m-2s-1)を安定的に供給することで,季節変動を完全に排除した制御環境を構築した。
その結果,LED植物工場で育成した株は,草丈の伸長速度,茎径の増加,葉緑素量(SPAD値)において温室を大きく上回り,健全な植物生育が確認された。また,果実中のビタミンC(アスコルビン酸)含量が温室栽培よりも顕著に高く,栄養価の面での優位性が確認された。
一方,温室では最大で2,000µmol m-2s-1に達する自然光を活かし,1個体あたりの光合成速度(ETR)はLED植物工場を凌駕した。その結果,果実1個あたりの重量,株あたりの収量,糖度(°Brix),リコピン濃度は,いずれもLED植物工場産よりも高い値を示した。
ただし,温室では日射量や外気温の急激な変動が避けられず,周年栽培を行なう場合には,生育速度や収量に季節的なばらつきが生じるリスクがある。対照的に,LED植物工場では播種から収穫までの環境を一貫してコントロールできるため,計画的かつ高頻度な収穫スケジュールの構築が可能となっている。
研究グループは,持続可能かつ高付加価値な大玉トマトを一年を通して安定供給する技術として,未来の農業にとって重要なマイルストーンになることが期待されるとしている。
