京都大学と広島大学は,多数の光子からなるW状態と呼ばれる量子もつれ状態を,一括で一度に識別する,もつれ測定の方法を新たに開発,さらにその実証実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
電子や光子などの個々の量子状態を制御することで,飛躍的な計算能力を実現する量子コンピュータや,盗聴不可能な暗号を実現する量子暗号,さらに,従来の計測技術の限界を超える量子センシングなど,量子技術の研究が精力的に進められている。
その中でも,光子は,長距離伝送が可能で,また室温でも量子状態が保存される有力な担体。特に,多数の光子が複雑に重ね合わさった量子もつれ状態は重要だが,状態推定に一般的に用いられる方法では,光子の数に対して指数関数的に多くの回数の測定が必要となり,問題となっていた。
研究グループは,W状態が持つ巡回シフト対称性という性質に着目し,任意の光子数のW状態に対して,量子フーリエ変換を行なう光回路を用いることで,量子もつれ測定を実現する方法を理論的に提案した。この方法は,入力された光子がどのようなW状態に存在するかを,1回の測定で,原理的には100%の効率で識別することが可能となっている。
また提案方式を3つの光子に対して実証するための装置を,変形サニャック干渉計に独自に開発した特殊な光学素子を埋め込んだ,極めて安定な量子フーリエ変換光回路を用いて実現した。これにより,ナノメートルオーダーの極めて高い精度が要求される光回路を,外部からの制御なしに長時間安定して動作させることに成功した。
さらに3つの光子を適切な偏光状態で装置に入力することで,構築した装置が3光子W状態を識別可能かどうかの評価実験を行なった。その結果,さまざまなW状態に対する光子検出信号のパターンは,理論予測と良い一致を示した。
さらにそれらの結果から,測定識別忠実度(MDF)を求めたところ,0.871±0.039という高い値を達成した。この値は,入力された3つの光子に対する測定を2つの部分に分けられる場合の測定により達成できる理論限界(2/3≒0.667)を明確に上回っていることも確認した。
研究グループは,多数の利用者間での新しい量子通信プロトコルの実現や,多光子量子もつれ状態の転送,さらには測定型の量子コンピューティングの新たな手法につながることも期待されるとしている。
