
京都大学,京都府立大,産業技術総合研究所は,大型放射光施設「SPring-8」で行なった小角X線散乱(SAXS)と広角X線回折(WAXD)による「その場観察」で,木材が曲がる瞬間のナノ・ミクロ構造の変化を世界で初めて捉えた(ニュースリリース)。
木材を効率的に加工することに加え,優れた性能をもつ木質系材料を開発するためには,木材の非常に複雑な階層的構造が変形時にどのように変化するかを詳しく理解することが重要だが,これまで,マクロな変形に伴うナノ〜ミクロスケールの構造変化を同時に直接観察することは困難だった。
一方で,近年では放射光施設を利用したX線による散乱・回折測定(SAXS/WAXD)が材料科学分野で広く用いられている。近年,別の研究グループは,木材のSAXSのデータより構造情報を求める「WoodSAS モデル」を提案し,このモデルが木材のナノ〜ミクロ構造変化を適切に評価できることを明らかにした。
そこで,この研究では,SAXS/WAXD定を木材が変形している最中に行ない,SAXSのデータをWoodSASモデルで解析することで,マルチスケールな階層構造がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。
SPring-8のBL40B2ビームラインの高輝度X線を用いて,飽水状態の木材に曲げ変形を与えながらSAXS/WAXD同時測定を行ない,木材中のナノ〜ミクロ構造のその場観察を行なった。そのために,水中で木材を曲げながらX線を通す特殊な治具を作製してSPring-8に持ち込んだ。
木材を曲げると,凸側(外側)は引っ張られて伸び,凹側(内側)は圧縮されて縮む。得られたSAXSデータから引張と圧縮によって細胞の形状が変化することが示唆された。また,SAXSータをWoodSASモデルで解析することにより,細胞壁を構成するセルロースミクロフィブリルどうしの距離が引張によって増加し,圧縮によって減少することが示唆された。
さらに,圧縮による圧密化の際に細胞壁が折りたたまれることが示唆され,引張によって微小なクラックが生成することも示唆された。一方,WAXDのデータから評価されるセルロース結晶の格子間隔や結晶サイズに大きな変化は認められなかった。これらのことから,十分に水分を含んだ木材の変形は,主にセルロースミクロフィブリル周辺のマトリクス成分が担うことが示唆された。
研究グループは,木材をナノ・ミクロスケールで制御する新たな技術につながる可能性がある成果であり,次世代の革新的な木材加工技術や新素材の開発への応用が期待されるとしている。



