高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,加速器による半導体露光技術の研究開発を促進すると発表した(ニュースリリース)。
最先端の半導体である3nmプロセスに用いられる極端紫外線(EUV)のレーザーは赤外線からのエネルギー変換効率が非常に低く,将来,さらに短い波長の光が必要になるときに大幅な設計変更が必要という課題がある。
また,スズの液滴に由来するごみ発生の問題や,装置が非常に高価であることから,加速器を使うEUV発生への期待が高まっている。エネルギー回収型線形加速器(ERL)という次世代加速器と,自由電子レーザー(FEL)を組み合わせる方法は,エネルギー効率を大幅に改善でき,「beyond EUV」(波長6.7nmを目標)と呼ばれる短波長化も比較的容易という利点がある。
これまでもFELを半導体露光機として利用する発想はあったが,エネルギー効率や周辺技術が十分ではなかった。しかし,近年の技術の進歩によりERLをベースにしたFEL光源が見直されており,KEKでも検討を行なってきた。
政府は,我が国が国際社会において中長期的に確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となる先端的な重要技術について,研究開発及びその成果の活用を推進するために「経済安全保障重要技術育成プログラム(通称“K Program”)」を推進している。
今回,ERLとFELを用いたKEKの提案が“K Program”に採択された。実用化できれば大幅に消費電力が下がるほか,日本が半導体露光技術で世界的優位性を確保できる可能性があるという。KEKの研究概要は以下の通り。
① 現在,KEKの小型のERL(cERL)で加速できる電子のエネルギーは数十MeV(光速の99.88%程度)だが,極端紫外線(EUV)を発生に必要場 800MeV(光速の99.99998%)程度まで加速するため,エネルギー損失が少ない超伝導加速空洞を開発する。
② 半導体の量産効率を高めるより明るいEUV光を得るために,加速器に入射する「種」となる電子を生成する電子銃の性能を高める。「光電陰極」と呼ばれる電子銃の心臓部の改良の成果は出ており,これをさらに進める。
③ FEL発振技術放射光施設使われる,電子を蛇行させて強い放射光を出す「アンジュレーター」と呼ばれる放射光源の製造コストを抑え,量産化する技術を確立する。
KEKは今回の技術課題について要素技術開発を行ない,実機およびプロトタイプ機に向けた全体設計を行なう。主要な要素開発を完了し,ERL型EUV-FELプロトタイプ機の製造着手が目標だとしている。