理化学研究所(理研)は,量子コンピュータへの応用が期待される基本素子である超伝導量子回路を用いて,1光子が2原子を同時励起する現象を観測した(ニュースリリース)。
通常1光子は原子のエネルギー準位にエネルギーが一致した場合に原子を励起する。しかし,量子力学的には複数の現象が起こる可能性が重ね合わさって存在しており,1光子2原子励起や,2光子1原子励起が起こる可能性も非常に低い確率で存在している。そのため自然に観測することは困難だが,研究グループは,特別な状況をつくれば,確率が高まり観測することができると考えた。
そこで,これまで観測されてこなかった,1光子が2原子を同時励起する現象を観測するために,超伝導量子回路の高い設計自由度を生かし,特別な回路をデザインした。この特別なデザインにおいては,原子と光子の結合エネルギーが光子のエネルギーの10%を超える超強結合という特異な領域を利用した。
研究グループは,2016年に1光子2原子励起の理論提案に基づき,一つの共振器に,二つの人工原子が非常に強く結合したサンプルの回路を作製した。この理論提案では,原子と光子の結合エネルギーが光子のエネルギーの10%程度あれば,1光子が2原子を同時励起する現象を観測できると予測されていた。
しかしながら,実際の回路上では,原子と光子だけでなく,二つの原子が直接相互作用する結合も考慮する必要があり,この直接相互作用は,共振器と原子との結合を弱めてしまう効果があることが今回の研究で明らかになった。
そこで研究グループは,原子と光子の結合エネルギーが光子のエネルギーの60%程度になる回路を設計し,原子同士の直接相互作用があっても,2原子励起を観測できる状況をつくることに成功した。この60%という結合エネルギーは,2原子励起が一番観測されやすい領域であり,この現象の観測のために最適化されている。
今回,初めて二つの人工原子を共振器に超強結合させることに成功した。そして,この超強結合を記述するために新たに構築した物理理論モデルが測定された系の特徴と一致することを明らかにした。
また,1光子が2原子を励起する現象を観測した。状態gg1とee0を行ったり来たりすることができるということは,1光子が2原子を励起し,その逆である2原子から1光子を生成する現象が起こっていることを示しているという。
研究グループは,これらの新しい量子力学現象の観測により,学問的な理解が深まるだけでなく,光子や原子の状態を利用した新しい量子情報処理技術への応用が期待されるとしている。