キヤノンは,156dBの高ダイナミックレンジを実現した2/3インチ・約210万画素のSPADセンサーを開発した(ニュースリリース)。
SPADセンサーは,画素に入射した光の粒子(フォトン)を1つひとつ数えるフォトンカウンティングを採用したセンサー。光を読み出す際にノイズが入らないため,暗い所でもわずかな光を検出し,ノイズの影響を受けずに被写体を鮮明に撮影したり,対象物との距離を高速・高精度に測定したりすることができる。
しかし,従来高照度下では,入射したフォトンが一定数を超えると処理のスピードが間に合わずにそれぞれを分離して検出できなくなり,画像が白飛びしたり,フォトンを1つずつ全てカウントすることで消費電力が大きくなるという課題があった。
今回開発したセンサーは,独自の「重み付けフォトンカウンティング」という技術を採用。この技術は,照度によってフォトンがセンサーに届く頻度に差があることに着目し,所定期間内で最初にフォトンがセンサーに到達する時間を測定することで,その後の一定期間に到達する総フォトン数を推計するため,被写体を白飛びさせずに鮮明に映し出すことができるというもの。
具体的には,従来は1つひとつフォトンをカウントしていたのに対し,所定期間内で一つ目のフォトンが届く時間から複数の到達するフォトンを推計する方式のため,検出できるフォトン数が格段に増加するという。
これにより,従来のセンサーと比較して,約5倍となる156dBの高ダイナミックレンジを実現し,1画素あたりの消費電力は,約75%減の低消費電力化にも成功。さらに,信号機などのLEDのフリッカー現象の低減も実現している。
監視,車載,産業用途など,多岐にわたる応用を想定しており,一例として,自動運転(AD)や先進運転支援システム(ADAS)への応用が期待されるという。自動運転技術の進展により,自動運転の安全性を担保する高度なセンサー技術が求められている。
これまで,一般的に普及しているCMOSセンサーをそのまま車載向けに用いた場合には,低照度やトンネル出口などの明暗差の大きい環境下での視認性に課題があることが知られている。同社ではさらなる技術開発を進め,低照度下での撮影を得意とするSPADセンサーに独自の技術を組み合わせたこのセンサーの量産開始を目指し,これらの課題の解決に貢献するとしている。