茨城大学の研究グループは、資源が豊富な元素からなるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)を用いて、波長2.1µmまでの近赤外領域に感度をもつ赤外イメージセンサーの開発に成功した(ニュースリリース)。
波長0.9~2.5 µmの短波長赤(SWIR)は、夜間の低照度下や煙霧での周囲観察、生体認証や非侵襲生体センシング、水分の可視化などによる農作物や工業製品の非破壊検査、自動運転に関わるLiDARセンシングなど、幅広い分野での活用が期待されている。特に人の眼への負荷が比較的低いアイ・セーフ波長帯(1.4 µm〜)を含むため、近い将来の普及が見込まれるフィジカルAIにおける3D形状計測などでの需要も見込まれる。 しかし、この普及に際しては、短波長赤外イメージセンサーの「価格」が大きなボトルネックとなっていた。
その主な要因として3つがあげられる。まず、InPやCdZnTeなどの高価で希少な化合物半導体基板を使用する必要があること。また、高度なヘテロエピタキシャル技術を使って赤外センサーの受光層を成膜する必要があること。そして、シリコン読み出し回路と受光部とを精密に接合する技術的難易度が高いことである。
これに対し、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)は、波長2.1µmまでの赤外域で受光感度を示す(禁制帯幅が約0.6eV)の半導体であり、短波長赤外用途の受光センサーに適した材料として期待されている。特に、常圧下での融液成長法という工業生産に適した方法で直径50mm以上の結晶成長が可能なこと、そして、資源が豊富で低価格なシリコンとマグネシウムを原料とすること、さらに、高度なヘテロエピタキシー技術を必要とせずに、汎用の拡散プロセスで受光センサーに必要なpn接合構造を製造できることから、低価格な赤外イメージセンサーを実現できる材料として注目されていた。
これまでに、Mg2Si基板上に簡易な熱拡散と微細加工プロセスを使ってpn接合型の高感度な赤外フォトダイオードが形成できることは報告されていたが、複数画素を並べたフォトダイオードアレイ構造を使って「赤外イメージセンサーとして活用できるか」についての実証はできていなかった。
研究グループは、汎用のフォトリソグラフィー技術を用いた微細加工プロセスと熱拡散によって、Mg2Si基板上に画素サイズ50µm角、画素ピッチ80µmの32画素フォトダイオードリニアアレイ構造を試作した。このセンサーは、波長1.2µmに感度ピークをもち、波長2.1 µmまでの明瞭な受光感度を示した。

続いて試作したアレイの各画素の出力を、独自に設計したトランスインピーダンスアンプ型のシリコンI/V変換回路を用いて読み出し、赤外イメージの取得を試みた。画像の取得は、フィルムにレーザープリンターで描いたパターンを透過させた波長1.31 µmの赤外光をセンサーに入射させ、センサー部を機械的に並行移動することで32×32画素の画像を取得する手法で行なった。
CZPチャートの一部と「茨」の文字を透過させて取得した画像を見ると、それぞれで鮮明な画像が得られており、特に「茨」の文字ではフィルム上の文字の濃淡まで明瞭に検出できている。このように、Mg2Siのフォトダイオードリニアアレイセンサーを用いて、短波長赤外域の赤外イメージ取得が可能なことを世界で初めて実証した。

現在、同研究チームは、この技術を発展させた2次元フォトダイオードアレイセンサーの開発および、多画素・微細化の研究を進めている。今回の研究の進展により、身近で資源が豊富な元素からなるMg2Siを用いた低価格な赤外受光イメージセンサーの実現、さらには自動運転や検査分野における赤外センシングの普及に大きく貢献することが期待されるとしている。



