京大,動物脳内で蛍光センサーを合成する手法を開発

京都大学の研究グループは,生きた動物脳内の特定受容体上で蛍光センサー分子を化学合成する新規手法を開発した(ニュースリリース)。

以前の遺伝子操作を伴わずに動物脳内の天然に存在する受容体を化学修飾する,脳内リガンド指向性化学は,脳内の狙った受容体に対して機能性分子を化学修飾できる優れた手法だったが,いくつかの問題があった。

修飾反応に10時間程度を要するため速い生命現象の観測に対応できない点や,導入したい分子の構造中にアミノ基などの反応性官能基を持つ場合は望まない副反応が起こりうる点があった。

そこで,研究グループは,受容体への標識反応を2段階に分け,脳内リガンド指向性化学による標的タンパク質への選択的なクリック官能基の導入と,クリック化学を利用し1時間以内で多様な機能性分子の導入を実現する新規手法の開発を目指した。

まず,第一段階として,脳内リガンド指向性化学によるAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)への選択的なクリック官能基の導入を試みた。研究グループがこれまで設計したクリック官能基導入試薬は,2次元培養細胞系で成功していたが,生きている動物の脳内での導入はうまくいかなかった。

そこで研究グループは,試薬にスルホ基を付加し,分子構造を調整することで,脳内でも効率良く官能基が導入できる新たな試薬を設計した。分子の脂溶性を示すパラメータであるClogP値と反応効率を比較した。すると,ClogP値と反応効率に相関が見られ,脳内で用いる反応試薬開発においてClogP値が良い指標になりうることを見出した。

次に,第二段階として,クリック化学によるAMPA受容体への機能性分子導入を行なった。二段階目に使用する試薬においても,ClogP値を考慮することで効率的な機能性分子の導入に成功した。今回開発した修飾法により,従来10時間程度要していた機能性分子導入のステップが,わずか1時間以内で可能になった。また,ペプチドのような様々な官能基を持つ中分子でも導入を確認できた。

最後に,開発した手法を用いて,AMPA受容体上にMMP-9の蛍光センサー分子の選択的合成を実現した。構築されたMMP-9センサーを用いて,AMPA受容体が局在する興奮性シナプス近傍のMMP-9活性を高解像度でマッピングすることに初めて成功した。

研究グループは,この結果は,MMP-9が関与すると考えられているシナプス可塑性の調整や脳神経系疾患のメカニズム解明につながるとしている。

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