
東京科学大学と京都大学は,高分子に可視光を照射することにより高分子に機能性部位を導入し,高付加価値な高分子に変換する手法を開発した(ニュースリリース)。
プラスチックに代表される高分子化合物は分子変換することで,その性質を大きく変えることができる。近年,可視光の照射という穏和な条件で駆動する光酸化還元触媒を用いて,酸化還元活性エステルを導入した高分子を分子変換する方法が注目されているが,高分子主鎖上に生成する炭素ラジカル種を利用するため,扱える反応には制約があり,複雑な機能性部位を導入することはできなかった。
近年,小分子化合物を対象とした有機合成化学分野においても,可視光を用いる光酸化還元触媒反応が数多く開発されている。特に,フタルイミド基を有する酸化還元活性エステル化合物から,まず炭素ラジカル種を発生させ,その後,炭素カチオン種を生成させるラジカルー極性交差反応が注目されている。これにより,さまざまな求核剤との反応が可能となる。
研究グループは,高分子化合物におけるラジカルー極性交差反応での求核剤との反応を検討した。ベンゾフェノチアジン型光酸化還元触媒の存在下,フタルイミド基を有するメタクリル酸エステルとアクリル酸メチルの共重合体を用いて,亜リン酸トリアルキル(P(OR)3)を求核剤として可視光照射を行なったところ,高分子主鎖上にホスホン酸エステルを導入することに成功した。
これは,スルホニウムイオン(炭素カチオン種)を生成し,求核剤である亜リン酸トリアルキルと反応したことを意味しており,高分子化合物に対して光酸化還元触媒を用いるラジカルー極性交差反応に成功した。
一方で,目的としたホスホン酸エステルの導入に加え,水素化体の副生も観測された。この水素化体は炭素ラジカル種が水素ラジカルと反応する副反応に由来する。今後はこの副反応の抑制が課題となるが,今回得られた高分子は,ホスホン酸エステル,水素化体,アクリル酸メチル由来の骨格を持つ複雑な高分子構造となった。
これは対応するモノマーの重合では得ることができない特殊な構造であるため,この手法により得られた新規骨格の高分子自体の機能や付加価値も期待される。
また,共重合のモノマーとしてスチレンを用いた場合にも本反応は進行し,対応するホスホン酸エステルを含有する高分子を得ることができた。このように,種々の前駆体高分子に対してこの反応を適用できることを示した。
研究グループは,この手法を用いてホスホン酸エステル以外のさまざまな官能基を自在に導入することができれば,多彩な機能性高分子の開発につながると期待されるとしている。