東京大学研究グループは,赤色レーザーダイオード(LD)を光源とすることで,植物の光合成と成長を飛躍的に促進できることを,世界で初めて明確に示した(ニュースリリース)。
植物工場の光源はLEDが主流だが,研究グループは今回,より波長帯の狭いLDの可能性に注目し,LEDと比較した。
植物は,クロロフィルで光のエネルギーを吸収し,光合成を行なう。光合成は二つの光化学系(光化学系IとII)によって駆動される。赤色光(波長640〜680nm前後)は,これらの二つの光化学系を活性化し,光合成を促進する。
LEDはおよそ50nm程度の幅広い光を出すが,LDは10nm未満という狭い帯域で光を出す。実験では,さまざまな赤色LEDおよびLDをタバコの葉に照射し,光合成速度・気孔の開き方・水の利用効率などを測定した。
その結果,LD 660nm光(LD光)を当てた場合が最も光合成が活発で,LED 664nm光(LED光)よりも約19%高い光合成速度を観察した。これはLD 660nm光が,二つの光化学系をバランスよく活性化したことが関係するという。
次に,植物の光合成システム(光化学系II)がどれくらい働いているかを調べた結果,LD光で照射したタバコの葉はLED光に比べて,光化学系IIの実効量子収率が7.2%,光化学反応が可能な光化学系II反応中心の割合が18.3%高かった。また,3種類の植物を12日間,24時間連続でLED光またはLD光で照射したところ,LD光で育てた植物の方が,乾燥重量はタバコで1.75倍,シロイヌナズナで1.57倍,レタスで1.28倍,高い値を示した。
さらに,葉面積はそれぞれ2.10倍,2.28倍,1.70倍大きくなっていた。葉の厚みを示すLMA(重量比)はLD光の方が低く,より薄く,光を効率よく受け取る葉が形成された。さらにLD光照射では光によるダメージ(光阻害や黄化)が少なく,ストレス症状がほとんど見られなかった。
研究グループは,LDの農業用・植物生理学実験の光源として,以下のメリットを示した。
クロロフィルの吸収に最適な波長を高精度で出力できる
光合成活性を最適化することで植物の生育を促進できる
二つの光化学系をバランスよく活性化できる
小型・軽量でエネルギー効率に優れる
光ファイバーを用いた柔軟な照射配置が可能
発熱が少なく,植物への熱ストレスが軽減される
宇宙空間や閉鎖環境における植物の精密な栽培制御に応用できる
研究グループは今後,マルチスペクトル照射や,多様な作物への展開,長期間栽培における植物の応答などを調べながら,レーザーを活用した持続可能な農業を目指していくとしている。