大阪大学,近畿大学,岐阜大学は,雷の放射線・電波・可視光を用いた多波長観測を実施し,雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際に,地球ガンマ線フラッシュと呼ばれる雷放電と同期した放射線バーストが発生することを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
地球ガンマ線フラッシュは,雷放電に同期して数十マイクロ秒という極めて短時間の放射線を発生させる。雷放電が加速器となって,大気中の電子を光速近くまで加速させることで発生すると考えられているが,雷放電のどのようなプロセスが放射線を発生させるかといったメカニズムはこれまで解明されていない。
研究グループは,石川県金沢市観音堂町に位置する金沢観音堂テレビジョン送信所に着目した。テレビジョン送信所は2本の鉄塔から構成され,2022年12月から2023年3月にかけて10例以上の雷放電を確認している。
そこでテレビジョン送信所を中心とした放射線センサー・電波アンテナ・可視光カメラを組み合わせた観測ネットワークを構築し,多波長での集中観測を実施した。放射線センサーは地球ガンマ線フラッシュを,電波アンテナは雷雲中を進展する放電路を,可視光カメラはテレビジョン送信所への落雷を監視する。
2023年1月30日10時13分29秒に,この観測ネットワークによって,テレビジョン送信所への落雷と地球ガンマ線フラッシュを検出した。2023年1月30日は日本海上で低気圧が発達するなど雷が発生しやすい気象状況となっており,石川県内には雷注意報が発令されていた。
電波アンテナでは,高度2.5km付近で負極性の放電路が始まり,高度0.9km付近まで下降して落雷に至ったことを確認した。一方で可視光カメラでは,金沢観音堂テレビジョン送信所の石川テレビ放送本社送信所より雷雲に向かって上昇する正極性の放電路を確認した。
つまり,地上と雷雲の両方から放電路が進展し,高度0.9km付近で衝突し,落雷に至ったと考えられる。このとき地球ガンマ線フラッシュは落雷に至る直前,わずか30マイクロ秒前に検出されたことから,地球ガンマ線フラッシュは2本のリーダーが接近して衝突する直前に,リーダーの間に集中した強い電場によって発生したことを解明した。
なお地球ガンマ線フラッシュによって地上にもたらされる放射線量は,最大で胸部X線検査1回分程度と推定されており,人体への影響はないと考えられる。
研究グループは,これにより雷放電がどのようにして放射線を発生させるか,その詳しいメカニズムの解明が期待されるとしている。