東北大学の研究グループは,日本全国1741市町村を対象に,住宅などの屋根上太陽光パネルと電気自動車(EV)を組み合わせて家庭の電力をまかなうシミュレーションを行ない,大幅な脱炭素効果を明らかにした(ニュースリリース)。
日本は 2050年カーボンニュートラル実現に向け,再生可能エネルギーの導入拡大が急務となっている。しかし,住宅やビルの屋根上に設置する太陽光発電(Rooftop PV)は,これまで技術的・経済的制約から脱炭素化の切り札として過小評価されがちだった。
一方で近年,太陽光パネルの性能向上とコスト低下が急速に進み,自家用車も電気自動車へと転換が進んでいる。EVは大型の蓄電池としても活用できるため,昼間に発電した太陽光エネルギーを蓄えて夜間に利用するバッテリーとして期待できる。
研究グループは,市町村ごとの人口,世帯数,建物屋根面積,車の保有台数,電力需要量,日射量などのデータをもとに,各地域で導入し得る屋根上太陽光パネル容量と発電量を算出した。その上で,平均的なEVを各世帯1台導入し,昼間は太陽光で発電した電気をまず家庭で消費,余剰があればEVに充電,夜間はEVから家庭へ給電する(V2H)ことを想定した。
その結果,全国を合計すると最大で1,155GWもの太陽光発電設備が設置可能で,年間発電量は1,017TWh に達することが分かった。これは日本の現在の総発電量の約1.2倍に相当し,屋根上太陽光だけで国内の電力需要を上回るポテンシャルがあることを意味する。
さらに各地域の需要と照らし合わせたところ,太陽光発電のみでは平均45%程度の需要しか賄えなかったが,電気自動車を蓄電に活用することで平均85%まで自給率が大幅に向上することが判明した。また,この組み合わせにより発電時と走行時の両方のCO2排出を合計87%削減できる見込みであることも分かった。
自家消費が増えることで余剰電力を売電できなくとも有効活用でき,光熱費・燃料費も合わせて33%の削減につながる試算。特に地方部では発電量が需要を大きく上回る地域も多く,電力自給率が90~100%近くに達する自治体も多数存在した。
一方,大都市圏では人口密度が高く屋根面積あたりの需要が大きいため,自給率は低めにとどまる。例えば東京23区では屋根の絶対量が限られるため,太陽光+EVを最大導入しても自給率は50%前後と見積もられ,地方との対照的な差が見られた。
研究グループは,この研究成果は,将来的に暮らしの電気を自給自足できる社会が実現可能であるとしている。