分子研ら,ピコキャビティ内の水素の分光計測に成功

分子科学研究所,総合研究大学院大学,独Fritz Haber Institute of the Max Planck Society,独Max Planck Institute for Structure and Dynamic of Matterは,低温・超高真空環境において銀ナノ探針と銀単結晶基板の間に形成されるピコキャビティ内に物理吸着によって閉じ込めた水素分子(H2)および重水素分子(D2)を探針増強ラマン分光(TERS)によって単一分子レベルで観測することに成功した(ニュースリリース)。

近年,ナノサイエンスやナノテクノロジーの分野で100億分の1mオーダーの極微空間である「ピコキャビティ」に閉じ込めた光(近接場)と物質との相互作用が注目され,原子スケールの精密計測や量子光技術の基盤としてその研究が急速に進展している。

研究では,最も単純な分子である水素分子をピコキャビティに閉じ込め,高精度のTERS測定を行なうことでその振動・回転モードを分光計測した。実験には,超高真空下で−263 ℃(10K)に冷却して水素分子を吸着させた銀単結晶基板と,先端部に可視光レーザーを照射した同じ温度の銀探針を用いた。その結果,ピコキャビティ内における水素分子の構造とダイナミクスを単一分子レベルで解明することに成功した。

特に,銀ナノ探針と銀単結晶基板の間隔(ギャップ距離)を精密に制御し,分子との極めて小さな相互作用を段階的に変化させたところ,D2に比べてH2の振動モードだけが大きく変化することを発見した。このようなピコキャビティにおける極微な現象は,従来の空間平均的なラマン分光やその他の振動分光法で観測することはできず,今回の単一分子レベルの精密分光によって初めて実証された。

この非自明な同位体効果の起源を探るため,密度汎関数理論(DFT)および経路積分分子動力学法(PIMD)による詳細な理論解析を行なった結果,非常に軽量な水素の原子核が低温において量子的に揺らぎ,空間的に広がっている「量子膨張効果」が,この違いの主な要因であることを明らかにした。

この成果は,極限的に狭い空間における光と分子の相互作用や,吸着分子の量子ダイナミクスに関する理解を深めるもの。研究グループは,原子スケールの精密分子分光は,水素貯蔵材料や触媒反応などのエネルギー関連材料の機能解析や,単一分子の量子制御の開発など,次世代のナノ計測や量子技術への応用展開が期待されるとしている。

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