熊本大学の研究グループは,これまでその構造がまったく不明であった縄文時代の網製品(漁網)を土器の中や表面に残る圧痕から復元することに成功した(ニュースリリース)。
縄文時代の網製品は実物が愛媛県の船ヶ谷遺跡(縄文時代晩期)から発見されていたが,網の構造についてはまったく不明な状態だった。
網製品の種類を同定するには,網の詳細な構造(作り方)復元が手掛かりとなる。これらの問題を解決するため,研究グループは,新ひだか町博物館,浦河町立郷土博物館,様似郷土館,北海道埋蔵文化財センター,鹿児島県立埋蔵文化財センター,熊本大学X-Earth Centerの全面的な協力を得て,7遺跡24点の静内中野式土器と20遺跡80点の組織痕土器をX線CT撮影やレプリカの作製を行ない,調査した。
その結果,静内中野式土器の場合,撚糸は1段左撚り,結び方は「本目ほんめ結び」,組織痕土器の場合,撚糸は1段右撚り,結び方は「止め結び」であり,両者とも従来予想されていた結び方ではなかった。
さらに組織痕土器のうち,とくに6.5mmより小さい網目サイズのものには,漁網の作り方と異なる布織りの技術が用いられており,これらは漁網ではなく,袋などの網製品であることが明らかになった。これは,組織痕土器の網が,土器粘土と型との間に敷かれた離型剤としての役割を果たしており,できるだけ細かな目のものが求められたためだという。
逆に静内中野式土器の場合は,網目サイズが大きいものばかりであり,土器粘土紐の芯材として入れるためにできるだけ長い漁網が好まれた結果だとする。さらに,静内中野式土器の場合はサイズの異なる網が同じ土器の芯材として利用されていること,組織痕土器の場合は破れた網も使用されていることから,素材は不明(おそらく植物繊維)だが,寿命が短く使えなくなった網製品や漁網を土器の素材や道具として再利用するという行為が行なわれていたと推定している。
これはまさに縄文時代のSDGsと言える。よって,これらの圧痕は当時の両文化における漁網のすべてを表すものではないという結論に達した。
研究グループは,今回の研究は,土器中や土器表面の「圧痕」として発見される,今では消えてなくなった縄文時代の網製品をX線CT技術や圧痕法を用いて復元,いわば蘇らせた,世界でも初めての研究だとする。
この手法は,これまでは主として栽培植物や穀物の検出に用いられていたが,発見がきわめて局所的で限定される有機物製品の検出と復元に効果があり,先史時代の暮らしや道具をより豊かに復元できる手法として,今後のグローバルな展開が期待されるとしている。