高輝度光科学研究センター(JASRI)と理化学研究所は,大型放射光施設SPring-8のBL03XUにおいて,ダイヤモンド薄膜とシリコンドリフト検出器(SDD)を用いることで,放射光X線ビームの詳細なプロファイルを可視化する新しい測定法を開発することにはじめて成功した(ニュースリリース)。
従来,アンジュレータ放射光の正確なビーム中心の決定は,偏向電磁石からの放射光の混入によって困難だった。各国の放射光施設では,この問題を解決するために,アンジュレータギャップ値ごとのX線ビーム位置モニター(XBPM)による測定値の補正や,偏向電磁石からの放射光の混入を最小限に抑えるためのマグネット配置のなどの対策が導入されている。
しかし,このようにビームモニター技術が進歩しているにもかかわらず,偏向電磁石からの放射光の混入を完全に無くすことは依然として難しいのが現状。そのため,X線ビーム中心を正確に決定するための新しい方法が求められていた。
研究グループは,この問題を解決するためにエネルギー分解能を有する2次元検出器を用いたピンホールカメラ型ビームモニターが有効であることを明らかにしてきた。この方法を推し進め,更に検出器のエネルギー分解能を向上させることで,より詳細なビーム形状の情報を得ることができると予想した。
今回の研究では,薄いダイヤモンド膜を散乱体として使用し,シンクロトロン放射ビームの詳細なプロファイルを可視化する方法を開発した。
まず,フロントエンドスリット(FES)を0.4mm×0.4mmの開口で2次元スキャンすることにより,固定位置に配置したSDDを使用してエネルギー分解能イメージを取得することに成功した。これらの画像から,SPECTRAによる計算機シミュレーションと良好に一致した。
次に,FESは固定位置のままで,ダイヤモンド膜を通過したX線をピンホールカメラの原理で結像し,SDDの二次元スキャンで測定した。この構成により,FESによって整形された1.5mm×1.5mmの開口サイズ内のピンクX線ビームの各エネルギーレベルでの放射パターン分布を可視化することで,ビーム中心を正確に決定することが可能になった。
これらの方法では,従来のアプローチでの大きな問題であった周辺の偏向電磁石からの放射光の混入がエネルギー分解により0.01%以下に抑制されることで効果的に排除され,真のビーム中心を直接かつ高精度に決定できるという。
研究グループは,この研究で開発された測定法は,放射光施設のビームラインの初期アライメントの効率化に貢献することが期待されるとしている。