宇都宮大学の研究グループは,150フェムト秒の時間幅を有するフェムト秒レーザーパルスを用いたアブレーションによって,高精度かつ変色の少ない紙の切断加工を実現した(ニュースリリース)。
紙のレーザー加工は,プログラムによる柔軟な加工形状の調整が可能で,刃の摩耗のないことから長期安定した加工形状等,工業的に優れた特性を有する。一方,連続光やナノ秒パルス光のレーザーを用いて紙を切断すると,紙が変色を起こすことが課題となっていた。
今回研究グループは,紙材料のフェムト秒レーザー加工を行ない,加工構造の共焦点光学顕微鏡観察によりレーザー切断実験におけるパルスエネルギーと照射パルス数の有効なレーザーパラメータを同定した。
パルスエネルギーと照射パルス数のレーザーパラメータに対する,紙のレーザー加工のしきい値特性を知り,それらのパラメータに非線形依存性があることを明らかにした。その非線形依存性から,パルスエネルギーと照射パルス数の積である総照射エネルギーを最小化する条件を見つけた。
紙材料を切断しないレーザーパラメータにおいて,紙表面に溝加工を実現できることを示した。溝加工領域のアブレーションは総照射エネルギーの増加に伴い増加した。溝上および溝横にあるデブリの量も同時に増加した。溝横の変色も.総照射エネルギーの増加に伴い増加した。
紙が切断される場合,どのデブリも劇的に減少し,同時に,変色も劇的に減少した。溝加工時の変色とデブリの位置がほぼ一致し,紙を切断したときに変色と破片が同時に減少したことから,変色はデブリの蓄積によるものと考えられるという。
実証的なデモストレーション実験として,レーザーパラメータを紙の加工しきい値エネルギー付近に調整することで,プリンターで紙に印刷された文字を最小限の損傷で除去できることをしめした。
さらに,複雑な構造と組成を持つ天然由来の紙である和紙を目に見える変色なしにレーザー切断できることを示した。
これらの結果は,新形状の食品容器、パッケージ、包装紙など、新しい紙製品の開発に貢献できることが期待される。0.01mm以下の精度で自由な形状の加工を可能にするため,研究グループは,高精細な紙の装飾やアートにも利用が可能だとしている。