日本大学,北里大学,香川大学,愛媛大学は,属イオンを中心に持つキラル分子を開発し,このキラル分子が形成するカラムナー液晶の内部構造を明らかにするとともに,擬ラセミ体形成を利用した新たなキラル光学材料の開発手法を提案した(ニュースリリース)。
カラムナー液晶は,ディスプレー等に用いられるネマチック液晶とは異なり,2次元的秩序をもち,柔らかな半導体材料や強誘電体材料として注目される次世代マテリアルの1つとなっている。
一方,キラリティーをもつ分子から構成される液晶において,分子がどのように配列しているかを明らかにすること,またそれを制御することは,重要な研究課題となっている。しかし,揺らぎをもつ液晶の内部構造を調査することは容易ではなく,特にラセミ体から形成されるカラムナー液晶における分子配列構造は謎とされてきた。
研究グループは,独自に開発したキラルな金属錯体を用い,X線回折測定をはじめとする実験的手法と分子動力学(MD)シミュレーションを組み合わせることで,右手型分子と左手型分子が交互に積層した構造を明らかにした。
さらにこの知見を活かして,中心金属の異なる2種類の光学活性体(∆-RuおよびΛ-Ir)の1:1混合物(擬ラセミ体)を調製し,これが純物質のラセミ体と同じくカラムナー液晶を発現することを見出した。
通常,ラセミ体は光学不活性だが,今回の擬ラセミ体からなるカラムナー液晶は光学活性を示し,∆-RuおよびΛ-Ir単体では見られないキラル光学特性を示すことが,振動円二色性分光法によって裏付けられた。
研究グループは,今回の研究は,これまで未知であったキラルなカラムナー液晶の内部構造を解明しただけでなく,カラムナー液晶を利用した新たなキラル光学材料の開発手法を提案するものであり,今後の応用展開が期待されるとしている。