JAXA,XRISMでブラックホール付近のX線放射を検出

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,X線分光撮像衛星(XRISM)によって,ブラックホール連星であるV4641 Sgrに広がった暗いX線放射を初検出した(ニュースリリース)。

宇宙を駆け巡り地球に降り注ぐ高エネルギー放射線「宇宙線」の起源は,宇宙物理学最大の謎の一つ。その状況において,ブラックホール連星が宇宙線を生み出している天体の候補として最近着目され始めた。

V4641Sgrはそのようなブラックホール連星の一つであり,ごく最近のガンマ線観測で判明した高速のジェットを吹き出す加速性能がブラックホール連星の中でもトップクラスであることが特徴だが,粒子加速環境の物理的理解のために必要なX線観測データが存在しなかった。

今回の観測は,X線分光撮像衛星(XRISM)によってV4641 Sgrを観測した。観測の主目的は,軟X線分光装置(Resolve)のマイクロカロリメータによるブラックホール近傍の精密分光だったが,軟X線撮像装置(Xtend)のCCDカメラの観測データからも興味深い成果が得られたとしている。

研究グループは,Xtendの広視野と低バックグラウンド性能を最大限活用し,ブラックホール近傍に広がった暗いX線放射を初検出した。発見したX線放射は,ガンマ線観測から推測される高エネルギー粒子の分布よりもブラックホール近傍に集中しており,天然の粒子加速器としての何らかのメカニズムがブラックホールのごく近くの環境で働いていることがはっきりした。

さらに,XRISMのデータをモデル化し,22年前のNASA(米国航空宇宙局)のChandra衛星による観測データに当てはめたところ,今回の発見と明るさが同レベルの広がった放射が確認できたという。これは粒子加速が主に静穏期に起きているという,これまでの予想に反する事実を示唆している。

この研究は,Xtendを主として用いた初めての科学成果へと繋がり,Resolveの補助として用いることが多いXtendの単体としての強みを示すことができたという。高感度な観測をすることで,未だごく少ないブラックホール近傍の粒子加速器の素性に迫る貴重なデータを拡張していくことができる可能性を示した点も重要だとしている。

今回の観測結果が示唆する,ジェットの存在が確認されていない静穏期での粒子加速が事実ならば,粒子加速という現象はジェットが観測される活動性の高いブラックホールだけでなく,もっと一般的に起こる現象の可能性があるという。

この成果は,V4641Sgrの今後のより深い観測や理論研究を活発化するだけでなく,ブラックホール天体での粒子加速現象,さらには銀河全体での宇宙線生成の物理的理解を観測・理論の両面で躍進させる契機だとしている。

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